生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する

47.生贄姫はシナリオを紡ぐ。

「賢者の石、と呼ばれるものが実在するのか?」

 テオドールが魔法陣を指すリーリエに尋ねる。

「いいえ、実在はしません。それが完成される前に、彼の人は自らいなくなったそうです。でも、事を成そうとした過程として危険なものが残ってしまった。それがこの魔法陣です」

 リーリエは首を振る。

「つまりコレは”賢者の石”生成レシピ?」

「正確に言えばその途中式です。”解”はまだ得られていませんから」

 かつての大賢者は全くとんでもないものを残してくれたものだとリーリエは頭を抱えたくなる。

「難解な難問があれば解き明かしたくなるのが魔術師の性のようで、この魔法陣に魅せられる魔術師が後を絶たなくて。危険視した当時の王命で禁術書庫に厳重に保管されることになりました。代々の陛下がまともな人で本当によかったです」

「そんなものが、なぜここに?」

 テオドールの言葉にリーリエも同意を示す。
それはリーリエとしても是非聞きたいところだ。

「俺の子飼いが持ってきた資料に入っていた。魔術省は管轄外だから、入手経路までは分からない」

 魔法陣を興味深そうに見ていたルイスは吐き出すようにそう答えた。

「リリは素手で触れないように気を付けてるけど、これ触るとどうなるの?」

「これは、魔力を変質させるための術式です。私レベルの魔力保有量では体内の魔力が一瞬で魔素化し、スキル暴発を招きます」

 実際に先日起こった事実をリーリエは述べる。
 遅延効果の魔道具をつけていても一瞬で持っていかれた。
 術式の強さは折り紙付きだ。

「この魔法陣に書かれてある術式を発動するためには膨大な魔力エネルギーが必要になります。賢者の石を生成するためには、それこそ何十、何百人レベルでの”魔力”がいる。体内の魔力を魔素化し、スキルを人為的に暴発させ、そうして生じた莫大なエネルギーをぶつけ合い、発現したエネルギーを形として凝縮させたもの。それが”賢者の石”の構想です」

 実際にはまだそのレシピ自体は未完成品ですけどねと付け加え、ものすごく嫌そうにリーリエはため息をつく。

「”賢者の石”に魅せられる者は残念ながら現在でも一定数存在するのです。ですが、それだけの魔力持ちを一堂に集められる機会などそうはない。例えば”戦争”でも起こせば話は別ですが」

 国で登録されている魔術師は有事の際強制懲役の命を受けるように課されている場合が多い。
 もちろん、それはカナン王国でも、アルカナ王国でも変わらない。
 戦争という言葉に反応し、ルイスとテオドールの顔が険しくなる。
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