クリスマスは赤い誘惑
クリスマス前の土曜日。街は当然のように人で溢れかえっていた。街路樹やショーウィンドウがクリスマス色に染まり、どこからともなくクリスマスソングが流れてくる。

「必要なものは買えたかな」

休憩に入ったカフェはピークを過ぎたものの、私と同じように荷物を持った人が多かった。
窓際の席から見える行き交う人々が少し浮き足立っているように見えるのは自分がそうだからだろうか。恋人とクリスマスを過ごすなんてかなり久しぶりのことだった。

向かいの席においた荷物に視線を遣る。佐野くんのプレゼントと、ボーナスが入ったからと言い訳してスカートを新調した。もちろんクリスマスデートに合わせていくつもりだ。

「あとは……」

買うべきものが一つ残っていた。
窓から見える道路を挟んだ向かいのショーウィンドウには派手な下着を身につけたマネキンが二体サンタ帽子を被ってポーズを取っていた。

クリスマスの夜を恋人と過ごす。
だったらとりあえずそういうことを想定しない理由はない。
ただ、現状そういったことが遠ざかっているわけで。
クリスマスの雰囲気だけでその不安が打ち消されるのかと言われれば頷けない。

『男なんてとりあえずエロい下着で迫ればほとんどお手上げだ』

セクハラだと一蹴したその言葉に左右されているなんて悔しいけれど。

冷めかけたコーヒーを飲み干し、決意が揺らがない内にと足早にカフェを出た。
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