クリスマスは赤い誘惑
恋人が何を考えているのか分からないのはいつものこと。
だけど、ちゃんと私のことを考えてくれていると行動の端々からはそれは伝わっている。

「美味しい……」
「それなら良かった」

クラシックな音楽が流れる中、運ばれてくる料理はどれも最高に美味しかった。クリスマスイブにホテルでディナーだなんて数日前にそう簡単に予約はとれない。私を誘う前から計画してくれていたのだ。そんな素振りを全く見せないところが佐野くんらしい。

美味しい料理にワイン、クリスマスの特別感溢れる雰囲気の中、向かいには恋人が座っている。贅沢過ぎる時間にいつもより早くアルコールが回る気がした。

「ペース早くない?」
「大丈夫……佐野くん、ありがとう」

ふわふわと楽しい気持ちに包まれる。ここ最近感じていた不安が嘘のように楽しい。色々疑心暗鬼になったりしたけど、佐野くんは私のことを大切にしてくれている。

「ベタだけど、好きだと思った」

稀に見せる年下らしくない表情にドキドキする。最近、社内の女の子たちが「かわいい」じゃなくて「カッコいい」とよく噂しているのを知っている。

だけど彼女たちは佐野くんの本当の顔を知らない。

自然とベッドの中の意地悪な佐野くんを思い出してしまって慌てて妄想をかき消した。

「……顔が赤い。少し休みましょうか」

デザートのアイスクリームにもアルコールが入っていたのだろうか。向かいの佐野くんの顔がさらに色気を増した気がして、小さな声で「うん」と返事をするしかなかった。
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