クリスマスは赤い誘惑
ホテルに合わせたのかいつもより少し堅めの服装も彼のすらっとした体躯によく似合う。それは待ち合わせた時にも思ったことだけど、エレベーターの中で佐野くんの匂いを感じる位置で改めて見ると少しだけ知らない人のようで落ち着かない。

休みましょうか、と提案した佐野くんはレストランを出るとそのまま当然のようにエレベーターに向かった。
レストランを出てからほとんど会話していない。ただ後ろをついていくとホテルの上層階で、部屋のドアを開けて促されるように入ると目の前の大きな窓から夜景が広がっていた。

「綺麗……」
「ほんとにこういうの好きですね」
「……分かってて連れて来てくれたんでしょ」

窓ガラスに映る彼に振り向いてそう言ってみるも佐野くんは唇の端を上げて微笑むだけだった。

「そうだ、これ……」

手に持っていた小さな紙袋を佐野くんに渡す。ジャケットを脱いだ彼は受け取ると「見ていい?」と確認して中身を開けた。

「あんまりしてるの、見たことないと思って……マフラーとかも考えたんだけど……」

渡したのはちょっとしたブランドのカフスとタイピン。シンプルなシルバーデザインで彼に似合いそうだと選んだ。
佐野くんはさっそく箱から出したそれを袖に留め始める。

「どう?似合います?」
「うん……似合ってる。良かった」
「ありがとうございます」

それを眺める佐野くんの優しい視線に嬉しくなる。まだ自分がコートも脱いでいなかったと気付いてクロゼットの前に移動した。
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