クリスマスは赤い誘惑
「でもまさか佐野くんがこんなとこ連れて来てくれるなんて思わなかった……」

影を感じて振り向くと佐野くんがすぐ後ろに立っていた。

「自分だけ渡して逃げるなよ」
「逃げたわけじゃ……んっ」

仏頂面が近付いてきたかと思えばすぐに唇が重なった。
キスも久しぶりな気がして、もっととねだるように自分から深めていく。
それなのに無情にも唇は離れていった。

「もっと欲しいって顔」
「……意地悪」
「ほら、こっち」

そう言って伸びた手がクロゼットの扉を閉じ、くるりと鏡に向き合うように肩を引かれた。目の前には佐野くんと自分……その胸元に光るものを見つけた。

「え……」

驚いてそれに触れ、視線を胸と正面交互に移す。

「これ……」
「似合ってる」
「っ、ありがとう、嬉しい」

何度も確かめるように一粒の石に触れる。そして鏡越しの佐野くんを見て振り返った。

「佐野くん……」

キスして欲しい

そんな風に思いながら見上げる彼の目を見つめる。絶対に私の意図に気付いているはずの佐野くんはにっこりと笑い返してくる。

「じゃ、休憩してください。水も飲みますか?」
「え……?」

佐野くんは今までの甘い空気を断ち切るように私から離れた。備え付けの冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出してくる。

どうして?今まですごく良い雰囲気だったのに……!

私にペットボトルを渡すと佐野くんはベッドに背を預けるようにして座り込み、ポケットからスマホを取り出して何かを見ていた。私のことは完全に放置だ。
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