浅葱色の魁
志賀のいる部屋に乗り込み

ドスンと座る


何事かと、平助をマジマジと見つめる


何も言わずにジロジロと見られ


志賀が笑う


「ふふふっ 本当に良く似てる」



志賀が平助の近くに行く



「私は、捨てたりしてないわよ
家定様ったら、なんの相談もして下さらなくて… 一度、たったの一度顔を見ただけ
乳もやれず、この手に抱くこともなく
性別すら知らず
へその緒も貰えず、用意していた産衣も
着せてあげられなかった
私は、母親として何も…何ひとつしてない
家定様から、子は死んだと聞かされていた
だから、子はいないものとしてきたの」


「すみません…言い過ぎました」



「あなたに謝られても困るわ」



「俺、いや、私は……
あなたの子ではないけど…
その……」



もじもじしながら、志賀をチラリと見て


「その子の代わりになりますよ」



志賀が、にこっと微笑み
膝立ちし、平助を抱きしめた



「生きていた…
それも、このように立派に…
顔に傷をつけるやんちゃな娘に…
会いたかった…
こうして、抱きしめることを
どんなに夢見、願ったことか」


「……忘れてなかったんですね」



「忘れたことなどありませんよ」




ゆっくりと平助が、志賀に手を回した



「どうか… お元気で…」



「あなたも!可愛い顔に傷を増やさないで!
また、会ってくれる?」


「お嫌でなければ…」








いつの間にか2人の頬を涙がつたっていた





しっかりと抱き合う姿は、長い間の
離れた時間を取り戻すようだった












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