執着系上司の初恋
暖かい場所 後半
イルミネーションがきらめき、入口のガラスの扉の向こうには、高い天井に届くぐらいのクリスマスツリー。
今年は、グリーン系じゃ無くて、ホワイトとシルバーのツリーなんだな。
今年の主要ターゲットは、大人カップルか。
休日の夕方はやっぱりファミリー層が多い。
今流れている音楽は、リフレッシュタイムのお知らせ。
毎日夕方4時、お客様にいつでも最善の状態でおもてなしする為、店内のクリーニングタイムになる。販売スタッフは、接客しているものを除き、お客様に邪魔にならないようさりげなく店内を磨き上げる。
時間帯から言えば、今は食品フロアが戦争だろうな。
デパートに入るなり、店内の飾り、客層、人出などついフロアを見渡してしまうのは、叩き込まれた経験からなるもの。
そう、ここは私の社会人をスタートした職場。
ここでの頑張りが本部への足掛かりになったが、それは転職してしまった今では捨ててしまったキャリアだ。婚約を破棄し、逃げるように広報を辞めた私は、育ててもらったこの店舗に来ることができなかった。ここのみんなにも、腫れ物を触るようにされてしまったら、と思うだけで、どうしても来れなかった。
でも、それじゃダメなんだ。そう気が付いたから、、
なんて、感傷に浸っていたら、走り去る小さい影。キョロキョロしては、また走り出す。
迷子だな。職業病的に困っている人センサーが付いてしまったようだ。
走っている相手を小走りで追いかけ、距離を詰めてから、ゆっくりと近づき立ち止まった瞬間に声をかける。
「お母さんは近くにいますか?」小さな男の子からちょっと離れた横の位置で、両膝を折り曲げ目線の位置を合わせて話しかける。こうすると、相手に威圧感を与えないらしい。相手に警戒されない声かけスキル。
これ、今の会社でも使えるスキルかも。私の頭の中にきらめくバカラのグラスが浮かんだ。
「ママ、、いないの。キラキラあって、くるくるしたの。ママいない。」
なんとかそう言った男の子は、2、3歳ぐらい。まだ身体に大きいダウンの端を握りしめ、口はへの字、大きな丸いおめめには涙の膜が張って、もうすぐぽろりとこぼれ落ちそう。
『くっ。かわいすぎ。』
ちょっとハアハアしながら、男の子の話を私なりに補足する。
「キラキラ、(クリスマスツリーを)くるくるしたの(ぐるっと回って見たら、その間に)ママがいない」
まあ、こんな感じだろう。このフロアにいそうだし、インフォメーションに連れて行ってあげよう。
ちっちゃな手を握りインフォメーションまで行くと、取り乱した若いご夫婦がいた。
「ママー!」繋いでいた手を離し、ちびっ子がママに抱きついた。
ママは涙目になりながら、優しく叱っていて、若いお父さんが、膝に手をかけ前かがみになりちびっこの顔をほっとしたように見つめる。
うん、私いい事した。満足げにご家族を見つめていたら、
「加藤さんでしょ!」
聞き覚えのある声。そこには、新入社員の時に可愛がってもらったインフォメーションのチーフ。
ちっとも変わらない美しさです。久しぶりの再会に嬉しくなって、笑顔で挨拶する。
「ご無沙汰しています。お元気でしたか?」
「もう、久しぶりすぎよ!ちっとも顔出さないんだから。すっかり綺麗になっちゃって、転職したんだって?いい出会いでもあったの?良かったわー。心配してたのよ。」
「心配」というフレーズに、気まずさを感じていると、
「あんなに可愛がってやったのよ。心配ぐらいさせて。」チーフはにっこり笑った。
ああ、今度は私の目に涙の膜が、、、でも泣かないよ。
だって、さっきのちびっこまだ見てるし。
ちびっ子ご家族に感謝され、別れを告げた後、チーフに連れられたのはコンシェルジュルーム。
「もう、今日は予約なかったわよね?」チーフが声をかけて入室すると、
「先輩!!」そこには、すっかり洗練された後輩がいた。
「任せてください!私が先輩にぴったりの服をご用意します!」
服を買いに来たと、チーフに行ったら、あれよあれよという間にコンシェルジュ担当になっていた後輩の元へ連れていかれ、売り場をはしごする事に。後輩は今、お客様のためのコンシェルジュサービスを担っているようだ。婦人服フロアの店舗のスタッフにしっかりと挨拶し、てきぱきと商品を集めていく。
『新入社員で、いつもオロオロしてた子が成長したんんだなー』そんな思いで後輩を見つめていたら、
「どうです、先輩。私もなかなか出来る子になったでしょう?」なんて、胸を張る。
ふふ、変わんないな。
「うん、うん、えらいね。さすがやればできる子」
駆け足で、フロアを上に下に回り、商品を持ってコンシェルジュルームに戻る。
化粧品や、洋服を、私に似合うカラーで見立て、並べていく。
ここ、3年ほとんど服を買う気になれなかったから、これは自分へのご褒美にしようと思いつつ、必要と思われるものを選んでいく。
その間、後輩のおしゃべりは続く。
「先輩のウエストをいかすボトムスは、これがいいと思います。紺色のレースタイトスカート。プライベートブランドなんで価格抑えてますが、質はいいんです。丈は膝下ですが、このシルエット!やばいです。」
「このとろみのあるシャツのカッティング見てください。エロいんです。鎖骨綺麗に見えるんです。上から覗くと見えそうで、見えないんです。」
「このツイードのワンピース、タイトなんで、上からジャケット羽織れば、オフィスもオッケーです。体のラインがなんとも言えない感じに、、、完璧です。」
試着しながら、やっぱ、この子 あんまり成長してないんじゃないかと心配になった。
試着を終え、会計をちょっとドキドキしながら待っていると、
「先輩、私の目標は今でも先輩です。お客様にまた会いたいと思ってもらえる接客が出来るよう日々、頑張ってます。判断に迷う時、いつも、先輩ならどうするかって思い出します。わたし、先輩にしてもらうばかりで、本当に申し訳なくて、先輩が辛い時にも何にも出来なくて、、」
後輩が眉間にシワ寄せながら、泣くのを我慢している。せっかくの綺麗な顔が台無しだ。
「どこにいても、私の自慢の先輩です!だから、私に出来る事なんて、先輩をエロ可愛いオトナ女子にするぐらいしか出来ませんが、これでちょっとでも先輩に恩返ししたいんです。」
そう言って、泣いた。
「もう、ばかなんだから。恩なんてなんにもないわよ。でも、ありがとう。」
そういう私も笑いながら泣いた。
私は婚約破棄したからって、彼の他には何も失くしてなかった。
確かにいろんな人がいる、でも、私を待っていてくれる人もいたんだ。
今年は、グリーン系じゃ無くて、ホワイトとシルバーのツリーなんだな。
今年の主要ターゲットは、大人カップルか。
休日の夕方はやっぱりファミリー層が多い。
今流れている音楽は、リフレッシュタイムのお知らせ。
毎日夕方4時、お客様にいつでも最善の状態でおもてなしする為、店内のクリーニングタイムになる。販売スタッフは、接客しているものを除き、お客様に邪魔にならないようさりげなく店内を磨き上げる。
時間帯から言えば、今は食品フロアが戦争だろうな。
デパートに入るなり、店内の飾り、客層、人出などついフロアを見渡してしまうのは、叩き込まれた経験からなるもの。
そう、ここは私の社会人をスタートした職場。
ここでの頑張りが本部への足掛かりになったが、それは転職してしまった今では捨ててしまったキャリアだ。婚約を破棄し、逃げるように広報を辞めた私は、育ててもらったこの店舗に来ることができなかった。ここのみんなにも、腫れ物を触るようにされてしまったら、と思うだけで、どうしても来れなかった。
でも、それじゃダメなんだ。そう気が付いたから、、
なんて、感傷に浸っていたら、走り去る小さい影。キョロキョロしては、また走り出す。
迷子だな。職業病的に困っている人センサーが付いてしまったようだ。
走っている相手を小走りで追いかけ、距離を詰めてから、ゆっくりと近づき立ち止まった瞬間に声をかける。
「お母さんは近くにいますか?」小さな男の子からちょっと離れた横の位置で、両膝を折り曲げ目線の位置を合わせて話しかける。こうすると、相手に威圧感を与えないらしい。相手に警戒されない声かけスキル。
これ、今の会社でも使えるスキルかも。私の頭の中にきらめくバカラのグラスが浮かんだ。
「ママ、、いないの。キラキラあって、くるくるしたの。ママいない。」
なんとかそう言った男の子は、2、3歳ぐらい。まだ身体に大きいダウンの端を握りしめ、口はへの字、大きな丸いおめめには涙の膜が張って、もうすぐぽろりとこぼれ落ちそう。
『くっ。かわいすぎ。』
ちょっとハアハアしながら、男の子の話を私なりに補足する。
「キラキラ、(クリスマスツリーを)くるくるしたの(ぐるっと回って見たら、その間に)ママがいない」
まあ、こんな感じだろう。このフロアにいそうだし、インフォメーションに連れて行ってあげよう。
ちっちゃな手を握りインフォメーションまで行くと、取り乱した若いご夫婦がいた。
「ママー!」繋いでいた手を離し、ちびっ子がママに抱きついた。
ママは涙目になりながら、優しく叱っていて、若いお父さんが、膝に手をかけ前かがみになりちびっこの顔をほっとしたように見つめる。
うん、私いい事した。満足げにご家族を見つめていたら、
「加藤さんでしょ!」
聞き覚えのある声。そこには、新入社員の時に可愛がってもらったインフォメーションのチーフ。
ちっとも変わらない美しさです。久しぶりの再会に嬉しくなって、笑顔で挨拶する。
「ご無沙汰しています。お元気でしたか?」
「もう、久しぶりすぎよ!ちっとも顔出さないんだから。すっかり綺麗になっちゃって、転職したんだって?いい出会いでもあったの?良かったわー。心配してたのよ。」
「心配」というフレーズに、気まずさを感じていると、
「あんなに可愛がってやったのよ。心配ぐらいさせて。」チーフはにっこり笑った。
ああ、今度は私の目に涙の膜が、、、でも泣かないよ。
だって、さっきのちびっこまだ見てるし。
ちびっ子ご家族に感謝され、別れを告げた後、チーフに連れられたのはコンシェルジュルーム。
「もう、今日は予約なかったわよね?」チーフが声をかけて入室すると、
「先輩!!」そこには、すっかり洗練された後輩がいた。
「任せてください!私が先輩にぴったりの服をご用意します!」
服を買いに来たと、チーフに行ったら、あれよあれよという間にコンシェルジュ担当になっていた後輩の元へ連れていかれ、売り場をはしごする事に。後輩は今、お客様のためのコンシェルジュサービスを担っているようだ。婦人服フロアの店舗のスタッフにしっかりと挨拶し、てきぱきと商品を集めていく。
『新入社員で、いつもオロオロしてた子が成長したんんだなー』そんな思いで後輩を見つめていたら、
「どうです、先輩。私もなかなか出来る子になったでしょう?」なんて、胸を張る。
ふふ、変わんないな。
「うん、うん、えらいね。さすがやればできる子」
駆け足で、フロアを上に下に回り、商品を持ってコンシェルジュルームに戻る。
化粧品や、洋服を、私に似合うカラーで見立て、並べていく。
ここ、3年ほとんど服を買う気になれなかったから、これは自分へのご褒美にしようと思いつつ、必要と思われるものを選んでいく。
その間、後輩のおしゃべりは続く。
「先輩のウエストをいかすボトムスは、これがいいと思います。紺色のレースタイトスカート。プライベートブランドなんで価格抑えてますが、質はいいんです。丈は膝下ですが、このシルエット!やばいです。」
「このとろみのあるシャツのカッティング見てください。エロいんです。鎖骨綺麗に見えるんです。上から覗くと見えそうで、見えないんです。」
「このツイードのワンピース、タイトなんで、上からジャケット羽織れば、オフィスもオッケーです。体のラインがなんとも言えない感じに、、、完璧です。」
試着しながら、やっぱ、この子 あんまり成長してないんじゃないかと心配になった。
試着を終え、会計をちょっとドキドキしながら待っていると、
「先輩、私の目標は今でも先輩です。お客様にまた会いたいと思ってもらえる接客が出来るよう日々、頑張ってます。判断に迷う時、いつも、先輩ならどうするかって思い出します。わたし、先輩にしてもらうばかりで、本当に申し訳なくて、先輩が辛い時にも何にも出来なくて、、」
後輩が眉間にシワ寄せながら、泣くのを我慢している。せっかくの綺麗な顔が台無しだ。
「どこにいても、私の自慢の先輩です!だから、私に出来る事なんて、先輩をエロ可愛いオトナ女子にするぐらいしか出来ませんが、これでちょっとでも先輩に恩返ししたいんです。」
そう言って、泣いた。
「もう、ばかなんだから。恩なんてなんにもないわよ。でも、ありがとう。」
そういう私も笑いながら泣いた。
私は婚約破棄したからって、彼の他には何も失くしてなかった。
確かにいろんな人がいる、でも、私を待っていてくれる人もいたんだ。