執着系上司の初恋
温もり 前半
華視点

窓を流れる景色は、紅葉が深く色づき、葉のなくなった寒そうな木々も目立つ。大きな窓の車窓から美しい山々の景色を眺めていると、
「あったかい飲み物、紅茶とココアどっちがいい?」
自動販売機で買った飲み物を両手に持ち、微笑みながら腰をかがめて座席に着くイケメン。

いいっ!すごく良いよっ!

「、、、すみません。課長に買わせてしまって。」
一瞬、素敵な景色と課長の甘い笑みに現実を忘れてしまった。じゃあ、紅茶を、、そんな事を言いつつ、本日の予定を思い出す。
先日、資料室から持ってきた過去の契約などを見直す中で、10年以上商品価格が据え置きだった契約が打ち切られていたのが分かった。この10年、原価だって変わるし、原価が高騰したが、技術革新でカバーし値段を据え置いたのか、それとも、放っておいても契約が続行されていたからそのままにして契約が切れてしまったのか、、、取引先に聞くわけにもいかず、工場へ確認する事になった。電話で確認するかと思ったが、課長が工場に直接行くというので、私がまだ工場へ顔出ししていない事もあり一緒に課長についてきたのだ。

「緊張してる?」
隣の座席から課長がココアを飲みながら聞いてくる。
課長、甘党ですね。そう思いつつ、

「少し、緊張してます。前職でも、工場といった場所には行った事がないですし、なんとなく厳しそうな人がいそうですし。」
そうなんだ。こないだ課長に罵声を浴びせていた品質管理の責任者も当然ながらお会いするのだ。
正直、お腹が痛くなりそうだ。
どうしよう、何もわかってない小娘がー!なんて怒鳴られたら。。。
いやいや、これは仕事。
怒られても、罵声を浴びてもしっかりとやり切らなくては!
そう思い、鞄から難解な化学式入りの製品の説明書や、ずらっと並ぶアルファベットの商品型番の書類、そして、わからない事を聞き、すぐに書き込めるよう肌身離さず持っている手帳を出す。

「なんだ、今から勉強か?」課長が呆れたように聞く。

「私にとっては、難解な言葉ばかりで、昨日の夜も一生懸命読み込んだんですけど、ちっとも頭に入らないんですよ。」苦笑いで答える。
昨日の夜、明日は工場だと思い、資料を読んだが、ちっとも理解が進まず気がつけば午前2時。明日は5時半に起きなきゃいけないんだったと焦って眠りについた。まあ、緊張と不安ですぐには寝付けなかったけど。
あんまり寝てない頭じゃ、きっと読んでも無駄だと分かるけど、読まずにいられない小心者なのが私だ。

「あんまり無理はするなよ。」
課長が優しく微笑んだ。

まだ、頑張れそうです。。

冴木課長視点
観光列車のように車両の両サイドに大きな窓があり、中央通路を真ん中に左右対称のように窓の隣に二つづつ座席が並ぶ車内で、彼女は勉強を始めた。
こんなに綺麗な景色の中、相変わらず真面目な彼女。
横にいる俺は、その生真面目さに呆れつつも遠慮なく彼女を見つめ、彼女の甘い匂いを堪能する。
コートを脱いだ彼女は、今日はジャケットを着ていて、その下はなんだかエロそうなツイードのワンピース。スリットなどの攻撃性は無いのに、なんだか見てるとムラムラする。。。。うーん、シルエットか?ジャケットの上からでもうかがえるウエストの曲線?腰回りにぴったりと沿うような細身なワンピースのスカート部分?それとも、、めくるめく妄想の世界が俺を誘う。
仕事、行きたくないな。。

幸せな時間は終わり、工場に着くと応接室に通された。長机が向き合うように二つつけられパイプ椅子が4つ並ぶ。工場なんて大体こんなもんだろう。
隣に座る彼女を見ると、ひどく緊張していた。
今は、まだ誰もいないし二人きり。
そっと、彼女の膝の上にあったかわいい手を上から包むように優しく握る。

「っ!!な、何するんですかっ!」
彼女は急に触られるとびっくりするようだ。赤くなった顔をニヤリと見つめてしまう。
驚いた彼女の手はぐっと握り込まれてこぶしを作っていたので、自分の指を絡ませて、強引に開かせ彼女の指と自分の指を交互に絡ませる。所以、恋人繋ぎだ。ぎゅっと彼女のかわいい手を握りつつ、

「心配するな。取って食いはしない。話せばわかる人達だ。」
彼女の不安が晴れるように優しく微笑む。

「っ、、、。」
彼女はなんだか涙目になった。
安心したのだろうか。


ガチャ
ドアの開く音。
名残惜しいが、彼女の手を離し座席から立ち上がり挨拶をする。
彼女も遅れて同様に挨拶し、少し気の重い打ち合わせのスタートだ。
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