執着系上司の初恋
鉄仮面女子のため息
ヒロイン登場
加藤 華 29才



「突然だけど、営業2課への異動の内示なんだ」

終業時刻を過ぎ、帰り支度を始めたら、人事部長に「ちょっといいかな?」と声をかけられ、第一応接室での第一声の言葉だった。

ただの平社員である私が、人事部長と気軽に話せるのは人事部長の優しさだろう。
転職者として孤立しないように、何人かいる転職者同士と一緒に交流の機会をもっているから。
転職してきたこの会社は歴史のある化学メーカー。
よく言えば保守的、悪く言えば頭の固いおじさんが多い会社。
自社工場もあり、そこにはオタクな研究員もいっぱいいる。

しかし、10年ぐらい前から経営陣が一新したことで、積極的に海外にも輸出し、社内規模も収益も右肩あがり。
採用も理系オンリーから、コミュニケーション能力に長けた営業部員の人員にも力をいれてるとか。
それでも、会社の急な方針転換による人材不足から転職者も増えてる。
そこに拾ってもらったのが、異業種からの転職者である私だ。
どんな異動にも文句は言えない。社内で営業部門は花形といえば、そうだろう。

しかし、、

「私、広報部員ですけど、、、」
さすがの私も目を見開く。だって、文系出身ですよ。
もともと、英語力と広報での社外対応を期待されてたはず。。

「前の会社でも広報の前は営業だったよね?いやー、ちょっと2課トラブちゃって人が足りないんだよね。頼むよー。ちょっと、課長が冷たいかもしれないけど、あいつも色々あったからさー。」


社を出て、重い足どりでお帰りラッシュの人の流れに流される、そうして、やっと地下鉄ホームにたどり着く。帰りの時間は誰もがお疲れ様な顔つきだ。


「はー。」ふっかいため息ひとつ。
幸せが飛んでったかな、、
「ふっ」ちっちゃく息を吸う。
幸せ戻ってこい。

駅で地味に深呼吸すると、空気の冷たさが身にしみる。

あー、来週から営業か。しかも上司は女子には塩対応って。
9月に営業部門の異動があったため、今回の突然のトラブルに人を営業部門から人を動かせない為に、私に回ってきたということで。。
2課に女子部員は派遣の年配の方が2人ほど。
なぜって2課の冴木課長は女子に塩対応で、課には女子を入れたがらない。
昔、社内で一方的に好意を寄せられ、騒がれ、本人の意思と関係なく1課から2課へ事実上の左遷を余儀なくされながらも、同期で一番に課長まで昇進し人望も厚いという。(人事部長談)
まあね、、したくもない苦労したんだとは思うけど、そこに無理やり行かされる私はどうなのよ。
しかも、この会社での営業経験ないのに。。

「はー」 あっ。また。

「ふっ」寒っ。
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