執着系上司の初恋

外面なんて、結局器のようなもの

「広報より本日付で異動になりました加藤です。よろしくお願いします。」
ほんのりと微笑を浮かべ、きっちりと言い終わった後に45度のお辞儀をする。
前の会社で染み付いたものは、条件反射のように発動する。

今回の特例人事は、人事部長と営業部長、そして冴木課長の暗躍と言われている。
もともと管理部門でも、プライドの高く失敗を認めない佐藤係長は、投げ出されるように2課に飛ばされた。
二課は、人望の厚い冴木課長の元しごかれると、キャリアに伸び悩んだ子、モチベーションが落ちた子を再生させ、営業でも花形の一課への人材に育ててしまうという再生工場。すなわち結果を出せば、出世コースという、競争倍率の高い部署だ。しかも、部員が女子に人気なのだ。
一見人当たりの良さそうな甘いマスクの冴木課長は、180センチぐらいの長身で細マッチョより少しがっしりとした上品な玉ねぎスーツを着こなす大人の色気が漂う36才。
しかし、一課からの左遷後は、社内女子には塩対応。でも、塩対応にしびれる女子続出。
甘いマスクの冴木課長の冷たい視線と冷え冷えとした有無を言わさぬ低い声にしびれて、また近寄る→塩投げられる→無限のループ。

お疲れ様です。イケメンも大変なんですね。ちょっと同情します。
でも、私を巻き込まないでくれないか。。。
大人しく、だけれども着実にステップアップして、定年までこの会社に置かせてもらいたい。今回の転職だって、ほんと厳しかった。自分のささやかな私はできる子っていう小さなプライドはあっという間に砕け散った。拾ってもらったこの会社では、目立たず、騒がず、嫌われず、をモットーに過ごしたい。

「では、加藤さんにはとりあえず、、、」
冴木課長の指示は続いているが、私は顔面を固定することに成功しているのか？誰か教えてっていう状況になっていた。
課長は、素晴らしくイケメン、いや、イケメンなんて軽いもんじゃなかった。
大人男子の色気にむせ返るっちゅーの。本人は、硬い表情で、こちらをちらっと確認するだけで、極力関わろうとしないのが透けて見える。
なのに、甘いマスクに飲み込まれそうです。
でも、私も営業上がりです。色々なお客様に笑顔の鉄仮面で乗り越えてきました。負けませんよ。
根性で、視線を山城さん、佐々木さんに向け、そそくさと業務へと取りかかる。

大人男子恐るべし、向こうも望まない女子社員との交流などなくてもいいでしょう。
甘いマスクも見慣れれば、きっと綺麗なガラスの食器と変わらない。
外見なんて、その人を型どる一つのパーツ。
それに囚われて、会社にいれなくなるなど私にすれば本末転倒。
私も、周りに敵が増えそうな交流はお断りです。
鉄仮面をかぶり直し、さあ、お仕事お仕事。。