そのなみだに、ふれさせて。



どうして言ってくれなかったの、って、そんな責めるような気持ちが浮かんだのに。

……一瞬にして罪悪感が、胸に滲んだ。



「家族って言葉を、瑠璃は嫌がるから」



「、」



「……言えなかったんだよ。

大事な女の子が、いることも」



いろちゃんも、呉ちゃんも、翡翠も。

3人とも、すごくすごくわたしを大事に思ってくれてる。……それは、わかってる。



だけどいつかは、それが普通になるのかもしれない。

3人にはわたしよりもとくべつな女の子が出来て、わたしは、後回しになっちゃうのかもしれない。



でも、そうあるべきだと思う。

いつまでも、あのふたつの表札がかかる一軒家の中で、記憶を止めておくわけにはいかない。




長男だからって理由で、いろちゃんにつらい思いをしてほしくない。

……いろちゃんがその話を黙っている理由を考えれば、いまでもつらい思いをさせてしまっていることくらい、わかるけれど。



いい加減、前に進まなきゃいけない。

止まった時間を、動かさなきゃいけない。



「……ああ、ちょっと立ち話しすぎたね。

授業免除は、有効的に利用すること」



不順異性交遊はだめだよ、と。

たしなめるように言った彼がバラ園を出ていく寸前に、「ルノくん」とその背中を呼び止めた。



「話してくれて、ありがとう」



言わなきゃ。言ってあげなきゃ。

なんでもひとりで背負ってしまうお兄ちゃんに、もう頑張らなくていいよって。……幸せになって、って。



いろちゃんは、ぜったいに、しあわせにならなきゃいけないんだよ。

終わりよければすべてよしなんて言葉は信じない。……でも、過去に十分すぎるくらい苦しんだ人は、ちゃんと報われてほしいの。



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