そのなみだに、ふれさせて。



「……紫逢先輩」



「ん?」



「わたし、逃げるの、もうやめますね」



ルノくんがいなくなってから、バラ園の中で彼と向き合う。

紫逢先輩は「やめるって?」と軽く聞き返してきたけれど、わたしの言葉に隠れた意味を探っているように見えた。



「御陵さんのこと、ちゃんと会長の彼女だって受け止めてきます。

……あと、あけみ先輩っていま生徒会棟ですかね」



「あけみ……?

ああ、うん……部屋にでもいると思うよ」



それなら、と、思ったタイミングで。

校内に鳴り響くのは特殊なメロディ。──生徒会棟から流される、生徒会からの、放送の合図。




『生徒会役員、至急生徒会棟に集合』



担当したのは会長で、各クラス授業がはじまっている頃の放送だからか、端的に内容を告げる。

どういう内容なのかはわからないけど、至急と言われれば行かないわけにはいかない。



……どっちにしろ御陵さんとあけみ先輩に用事があったから、一石二鳥だ。

ふたりでバラ園から生徒会棟に向かい、黒い扉の向こう、長い廊下をまっすぐに進んだ。



「お待たせしました」



リビングに入れば、会長以外のメンバーは揃っている。

あけみ先輩はさきほど紫逢先輩と喧嘩したみたいだから、わたしと彼を見て、ふいっと顔を背けた。



……やっぱり、そういうこと、だよね。



「急に呼び出して悪い。

……要件は言わなくてもなんとなく分かっているだろうが、」



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