そのなみだに、ふれさせて。
会長が、扉を開けてリビングに入ってくる。
説明しながら「ほづみ」と名前を呼んで、後ろにいたらしい彼女の姿を、わたしたちに紹介した。
「言ってた申請が通った。
……つまり、こいつも今日から生徒会役員だ」
「御陵ほづみです。よろしくお願いします」
頭を下げるだけの何気ない仕草なのに、姿勢が綺麗で、思わず目を奪われる。
品のある女の子って、きっと彼女のような女の子のことなんだと思う。
「さっき、話の途中だったのにごめんなさい。
麻生瑠璃です。生徒会では会計補佐担当で、クラスも同じだから、こちらこそ仲良くしてもらえたらなって……」
「瑠璃ちゃん、ね。
ふふ、よかったぁ。さっき急に色々言っちゃったせいで、てっきり嫌われちゃったのかなって思ったの」
うれしそうに笑った彼女が、ぎゅっとわたしの手を握る。
一生懸命話してくれる姿にさえ可愛さが滲み出ていて、極道一家の娘だと言われても、正直あまりピンとこない。
っていうか、わたし第一印象すごく悪かったよね……
いくら会長の彼女を実際目にして動揺してたからって、流石にあの対応はひどい。ごめんねと思わず謝れば、彼女はくすくす笑って気にしてないよと言ってくれた。
……いい子、だ。
綺麗で可愛くて、文句のつけようがないくらい。
「ほづみちゃんはどの役職になるんですか?」
「会長代理。
……別に俺の補佐をしてもらうほどじゃねえしな。何かあった時の判断を任せる程度だ」
「……へえ」
ぽつり。
紫逢先輩はつぶやいて、わたしの髪に指を絡める。もてあそぶようにくるくると巻き付けた彼は、相変わらず色の違う瞳を、投げやりに会長へ向けた。
「ずいぶんと溺愛してんだね」