そのなみだに、ふれさせて。
……さっき教室の前で顔を合わせた時にも思ったけど、なんとなく彼の言葉に刺がある気がするのは気のせいだろうか。
なんていうか、聞いていてはらはらする。
「ふふっ。
そういう葛西先輩も、ずいぶん瑠璃ちゃんのこと溺愛してるように見えますよ?」
「そりゃあね。溺愛してんだもん」
触れたままのわたしの髪をひと房引いて、音もなくくちびるを落とす紫逢先輩。
っ、この人、糖度高いしスキンシップが多い……!
女の子好きのイメージしかなかったのに、思っていたよりもまっすぐに溺愛されて、どうすればいいのかわからない。
……意外と、いちゃつくの好きなのかな。
「とりあえず、自己紹介でもしておきますか」
さっきまで興味なさげだったちーくんが、顔を上げて誰にともなく告げる。
昨日の今日で、まだうまく顔を見れないけど。
一応簡単に名前と役職と学年だけの自己紹介を済ませ、特にそれ以上何かあるわけでもないので解散、となったとき。
「それじゃ」と早々にリビングを出ていこうとしたあけみ先輩のことを、呼び止めた。
「……なに? 瑠璃」
「ちょっと、話があって……」
彼女の澄んだ瞳が、一瞬紫逢先輩に向く。
それから、何も言わずにリビングを出ていく彼女。
こ、れは……ついていっても、いいのかな?
何も言われていないんだから大丈夫と勝手に解釈して、あけみ先輩の背中を追う。
互いに無言で向かったのは、生徒会棟の3階。
物置と個人部屋が4つあって、この階の個人部屋は、会長と菅原先輩、あけみ先輩と紫逢先輩の4部屋。
ほとんど使っていないわたしの部屋と、ちーくんの部屋は2階にある。
一応家具は備え付けられてるけど、それ以外にほとんど物を置いていないわたしの部屋は殺風景だ。