そのなみだに、ふれさせて。
「紅茶でも淹れるわ。
……好きなとこ適当に座ってて」
「あ、ありがとうございます」
わたしの頭をぽんと撫でて、あけみ先輩がキッチンに入っていく。
ワンルームマンションのようなつくりの部屋。あけみ先輩の部屋は、わたしの部屋と違って綺麗に整理されていた。
棚に置かれた花瓶。生けられているのは、空気をはらんだように膨らんでいる、ふしぎなカタチをした紫色の花。
じっと見つめるわたしに気づいたのか、彼女は「カンパニュラよ」と教えてくれた。
「風鈴草とも言われてるの。
……風鈴みたいに見えるでしょう?」
「はい。綺麗ですね」
わたしのボキャブラリーが乏しいせいで、うまく伝えられないけど。
詳しいわけでもないけれど。花は好きだ。
「……それで、話って?」
紅茶を淹れてくれた彼女にお礼を言う。
向かい合った彼女ではなく、カンパニュラを見つめたまま。促してくる彼女を「あけみ先輩」と呼んだ。
紫色の花。
花瓶の隣に添えられた、写真立て。
わたしがはじめにじっと見つめていたのは、花ではなくそっちの写真の方だった。
たった1枚だけのその写真は、今よりも少し幼い和服姿の男女が並んでいる。……あけみ先輩と、紫逢先輩。
「……わたしのこと恨んでますか?」
「、」
ちょっと予想外だったんだろう。
カップに口をつける彼女に視線を巡らせれば、「恨んでる?」と、困ったようにわたしを見ていた。