そのなみだに、ふれさせて。



「はい。恨んでますか?」



「……なんであたしが瑠璃を恨まなきゃなんないの?

あんたあたしに恨まれるようなことした?」



「紫逢先輩と付き合ってます」



一言。言い切ったわたしに、彼女が眉間を寄せる。

「だから何?」とでも言いたげなその表情。……でもその奥にあった、違和感に、わたしは気づいていた。



昨日、付き合ってるって彼が言った時から。

見逃してしまいそうなほど些細なものだったけど。



「あけみ先輩、紫逢先輩のこと好きですよね?」



彼女が機嫌を悪くした理由。

そして今朝も、幼なじみと喧嘩した理由。




「……馬鹿言わないで。あたしは、」



「あけみ先輩は紫の花が好きだって、昨日紫逢先輩が言ってました。

……でも今日気づきました。別に、あけみ先輩は紫色の花を好んでるわけじゃない」



飾られた紫色のカンパニュラ。

写真にうつるのは、どこかの藤棚。



「紫逢先輩のことが好きだから、ですよね」



彼の名前に入る、紫の文字。

よく考えれば、すぐに、わかることだった。



華道の家元に生まれたことを、当然、紫逢先輩は知っているから。

……だからその気持ちを隠しながらも、ひそかに、想いを花に込めた。



それを紫逢先輩は何かと見てきた。

だからあけみ先輩は紫色の花が好きだって思い込んだだけで、そうじゃない。……それはあけみ先輩が長年秘めてきた、彼への特別な感情だ。



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