そのなみだに、ふれさせて。



「……恨んでもらっても構いません。

わたしは紫逢先輩のことを利用してるようなものですから。許せなくて普通だと思ってます」



わたしは会長のことが好きなので、と。

言ったわたしに、彼女は「違うのよ」と返した。



「……たしかにあたしはずっと紫逢のことが好きよ。それはまあ、正直に認めるわ。

でもあたしはね、別に瑠璃のこと恨んでないわよ。紫逢が瑠璃を好きなことには気づいてたし」



「、」



「あたしはどっちかっていうとあいつに怒ってんのよ。

……あたしの気も知らないで、"あけみのことは俺がなんでも知ってる"とかふざけたこと言うから」



『あけみのことは俺がいちばん知ってんだから』



……そう、いえば、数日前にも聞いた。

「あいつがいちばん分かってない」とため息を落とした彼女は、再度紅茶に口をつけたあと。




「あいつの女遊びって昔っからひどくてねー。

……正直、彼女ができたって聞かされても、"またか"ぐらいにしか思わないのよ」



どこか懐かしむように目を細める。

それを見て、やっぱり綺麗な人だな、と思った。



「でもね、紫逢に一回だけ泣かされたことがあるの。

……まあ、あいつは泣いたこと知らないけど」



「泣かされた……?」



「そ。……きっかけはなんだったか覚えてないんだけど、"あけみだけは特別だから抱けない"って言われたの。

ひどい男だと思わない?簡単にあたしのこと特別だって言っときながら、あいつあたしのこと抱けないのよ」



……どうやったらそんな日常会話が行われるんだろう。

わたしがお子様すぎるのかな。でもそれを言われたあけみ先輩の気持ちを考えたら、無条件に、苦しくなる。



「まあでも、特別って言葉にちょっと安心してた。

……だけど今年になって、すこしだけ焦った」



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