そのなみだに、ふれさせて。
くすり、と。
彼女の笑みが、静かな部屋に、溶ける。
「……気づいたの。
瑠璃のこと、特別な目で見てるって」
「っ、」
「でも瑠璃が会長のこと好きだって分かってたから、油断してたわ。
まさか紫逢が瑠璃のこと口説いて彼女にするとは思わなかった」
ふたりには、ふたりの思い出と時間がある。
それはわたしがこれから先、どれだけの年月をかけたって、わたしには追いつけないものだ。
「でもね、瑠璃。
……あたし、ちょっと安心したのよ」
手を伸ばした彼女が、わたしの頭を撫でる。
優しすぎるそれに、泣きそうになった。
「あいつにちゃんと好きな子ができたことも、"特別"って言葉をどこかで信じてた自分の気持ちをちゃんと裏切ってもらえたことも。
……相手が、瑠璃じゃなきゃ許せなかった」
「あけみ、先輩、」
「やだ、泣かないでよ。
あたしが自分の気持ちを黙ってたのは、紫逢が好きになったのが瑠璃で安心したからなの。……まああんたが意外と鋭くてびっくりしたけど」
ほら泣かないの、と。
彼女はあふれてくる涙を拭ってくれるけど、ぽろぽろととめどなくこぼれてしまう。
だって、「瑠璃でよかった」って言ってくれるから。
「こんなにかわいい後輩のこと恨むわけない」って言ってくれるから。
「瑠璃がたとえこの先会長のこと選んでも、あたしは絶対恨んだりしないから。
……泣いてないで笑って?瑠璃のこと泣かせたなんて知られたら、あたしが紫逢に怒られる」
優しすぎるあけみ先輩に、何度も泣きそうになったけど。
彼女の言葉に笑ってみせれば、あけみ先輩は、やっぱり綺麗な表情で笑ってくれた。