そのなみだに、ふれさせて。
・いとしき数多の恋情が宵に匂えど
◆
「あ、麻生さーん……!!」
あけみ先輩と話したあと、リビングにもどれば紫逢先輩はどこに行ってしまったのかいなくなっていた。
連絡しても繋がらなかったし、何よりちーくんと同じ空間にいるのが気まずくて、逃げるように教室へ来たのだけれど。
「……わたし?」
なぜか女の子たちに呼ばれ、手招きされる。
今朝とは打って変わったその態度を不審に思いつつも近づけば、内緒話でもするように、女の子たちの輪に取り込まれた。
ちょうど休憩時間。
だからこそ授業に出ようと思って、教室に来たのだけれど。
「あの子が瀬戸内先輩の彼女ってほんとなの!?」
……ああ、そういう、ね。
「ほんと、だと思う……
はじめに彼女だって言い出したの、会長だから……」
言えば「そうなんだ」と彼女たちは残念そうにつぶやく。
それから、「あたし達さぁ」とおもむろに切り出したかと思えば。
「会長って、
麻生さんのこと好きなんだと思ってたんだよねー」
「へ……?」
「だって、宮原先輩は去年も役員だったらしいじゃん?
しかも菅原先輩と葛西先輩が取り合ってるー、みたいな噂あるからさぁ、関係ないんだけどー」
「そうそー。
でも今年急に麻生さんが役員になったでしょー?しかも元は翡翠くんだったのに、いきなり指名変更とか、コレもう絶対お気に入りじゃーんみたいな」
菅原先輩と紫逢先輩はあけみ先輩を取り合ってなんかないし、むしろあけみ先輩が紫逢先輩を好きだ。
噂ってとんでもない。むしろわたしが会長を好きだというのに、逆に思われていたなんて心外すぎる。