そのなみだに、ふれさせて。
「……とりあえず、家、帰ろうか?」
できるだけ、やわらかく。
安心させるように言えば、瑠璃がこくんと頷く。それから突然、「あっ!」と声を上げた。
「え、なに。どしたの?」
「ど、どうしよう……
南々ちゃんから電話掛かってきてたのに……っ」
慌てたようにスマホを取り出す彼女。
電源を切っていたようで、起動させると通知には『南々ちゃん』から数回の着信履歴。
「も、もしもし、南々ちゃん……っ!
ごめんなさいっ、電話ずっと出れなくて、」
すぐさま掛け直した瑠璃が、勢いよく謝る。
事情を説明しようとしている瑠璃の雰囲気で、なんとなく居候先の人だってことはわかった。……たしか8プロの社長、下の名前が"ななせ"だったな。
「すみません。
……俺が瑠璃のことを付き合わせました」
本当の事情なんて、瑠璃は言えない。
言えるならはじめからこんな場所で時間を潰したりせずに帰っているはずだ。それがわかったから、彼女の手からスマホを抜き取って。
代わりに嘘を言えば、『あら』と小さな驚きのあと。
相手は、『失礼ですが、どちら様かしら?』と。とても柔和な声で告げる。メディアで見かけたことがあるけれど、声だけで優しさが滲み出ていた。
「葛西紫逢、と言います。
王学の生徒会で副会長を務めていて、」
『ふふっ。瑠璃の彼氏さん?』
「……はい。まあ、」
……いくら好き同士で付き合ったじゃないにしろ、彼女の家に何の連絡も入れないまま遅くまで付き合わせたとなると、さすがに印象は悪い。
まだ時刻は20時を過ぎたあたりだけど、高1になって間もない女の子だ。心配もする。