そのなみだに、ふれさせて。



『そう。何も無いなら良いのよ。

……もうすぐ、帰ってこられそうかしら?』



問い掛けられて、瑠璃を見る。

「家近いの?」と聞けば、ここからそう遠くない距離。すぐ送り届けますと言ってから、電話を終えた。



「ごめんなさい、紫逢先輩……

付き合わせたとか、嘘まで言わせて……」



「いいよ。

ただ、泣いたの言いたくないと思って」



……まあ、よく見たら泣いたのバレるかもしんないけど。

公園から歩くこと数分。途中からあたりは高級住宅街になって、その中で外観だけでも一番大きな家を指さした瑠璃。



筆記体の『SUOU』の文字が書かれたプレートがかかるその家。

ベルを鳴らせば出てきたのは珠王社長で、彼女は瑠璃を「おかえりなさい」と優しく迎えた。



……やっぱり優しそうな人だ。

申し訳なさそうに謝る瑠璃の髪を撫でた彼女は、「ご飯できてるわよ」と先に家に入るよう促した。




「紫逢先輩、ほんとに、ありがとうございました。

……そういえば、用事あったんですよね?」



「大したことじゃないから大丈夫だよ」



にこりと微笑んで、もう一度お礼を言ってくれる彼女にひらひらと手を振る。

すこしだけくすぐったそうに笑った瑠璃。家に入っていったのを見届けてから、彼女は「はじめまして」と俺に告げた。



「さっき電話で話したのはわたしで、珠王南々瀬です。

……瑠璃から、ここにいる理由は聞いてるかしら?」



俺も「はじめまして」と、改めて名前を名乗ったあと。

居候のことと母親の存在について軽く口に出せば、彼女は困ったように目を細める。……そして。



「……あの子、泣いてたんでしょう?」



的確に、俺がついた嘘を見破ってみせた。



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