そのなみだに、ふれさせて。



でもあれは嘘じゃない。

本気で瑠璃よりもあの場を優先しろと言っていたなら、俺は葛西なんて簡単に捨ててしまえる。……それくらいに、あの子だけが、大事なんだよ。



「おかえりなさいませ、紫逢様」



「わざわざ出迎えなくてもいいよ。

……夕飯、俺の分も用意してもらっていい?」



「もちろんです。

出来上がりましたらお呼びしますね」



それに「ありがとう」と一言返して。

部屋にはもどらず、縁側で月を眺めていたら。



「紫逢」



「、休んでいなくていいんですか」




父親が姿を見せて、咄嗟に口を開く。

顔色は悪くないように見えるけど、放っておけるほどの仲でもない。……でも俺らの親子の繋がりはおそらく、比較的薄い。



「病は気から、と言うだろ。

病気でもないのに休んでいられるわけがない」



……絶対安静って言われてんだから、休めばいいのに。

そういう人だってことは知ってるけどさ。



「……さっきの宮原嬢との話だが、」



「何言われても、あけみとは結婚しないよ」



「ああ、それでいい。

……とりあえずは保留で、あいつも納得した」



ぱっと、顔を上げる。

あいつって……奥様が、そんな保留なんて答えで納得した?



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