そのなみだに、ふれさせて。
会長は知らないかもしれないけど、瑠璃は会長のことを好きなんだから、余計にタチが悪い。
穏便に伝えたつもりだったのに、自分の声には明らかに苛立ちが混ざっていた。
『でも、麻生はお前のこと好きじゃないだろ?』
目眩がする。
放たれた言葉が、確実に俺の中心を抉るから。
「だからって、」
『ねえ、雨音ー……って、電話中?』
電話越しに聞こえた声に、喉の奥がキツく締まったような気分だった。
会長がいま一緒にいるのは、あの子か。……なら、それこそ、本当に、許せない。
自分から彼女だって紹介した女の子のことくらい、大事にしてやればいい。
だからもう、瑠璃には、今後一切。
「会長、電話スピーカーにしてよ」
近づかせたくもない。
会長の余計な行動のせいで瑠璃を惑わせたくないし、無駄な期待をしてほしくない。何より泣かせたくない俺にとって、この答えは間違ってない。
『紫逢先輩ですか?』
「……そ。よくわかったね」
俺は一度名乗った程度で、いきなり下の名前で呼んでくるような女の子キライだけど。
そんな黒い本音は内に隠したまま、「ほづみちゃん」と、俺も名前で彼女を呼んだ。
「会長と付き合ってるんだよね? なら、」
『瑠璃ちゃんに雨音が近づくのは浮気、ですよね』