そのなみだに、ふれさせて。
・水鏡にうつるは届かぬ叫びの残響
◆
「あの……、紫逢、先輩?」
──泣いてしまって彼を呼び出した、翌朝。
そんなわたしを気遣うためなのか、紫逢先輩がわざわざ家まで迎えに来てくれた。
呉ちゃんがいつものように南々ちゃんとななみを迎えに来た直後だったからひやりとしたけど、シスコンな呉ちゃんに見つからなかったから良しとする。
そしていつものように、瀬奈と途中の道まで一緒に登校したあと。
さっきまでいつも通りだったはずの紫逢先輩は、ふたりきりになると急に黙ってしまった。
だけど手だけは強く握られていて、オッドアイは不安定に揺れる。
「瑠璃さ……」
「……なんですか?」
耳の奥で、ばらばらと何かが崩れていく音がする。
その"何か"が生徒会であることを言われなきゃわからないほど、子どもじゃないけど。
「会長に好きって言われたらどうする……?」
「……はい?」
その原因は、わたしな、気がする。
ちーくんに関しては言わずもがなで、会長にだってキスされて気まずくなってるのはわたしで。
……紫逢先輩と付き合って、ああ言ってくれていたあけみ先輩も、きっと思うところがあるはず。
すべてを掻き回した原因はわたしで、だからこそ、もうこれ以上は変に口を挟めない。
「会長には、ほづみちゃんがいるじゃないですか。
それに、いまわたしは紫逢先輩と付き合ってます」
「そうだけど……
そうなんだけど、そうじゃなくて……」
もごもご。
言い篭りながら、彼は何度も何度もオッドアイを不安定に揺らめかせる。……何かあったのは一目瞭然で、この人は、嘘が下手だ。