そのなみだに、ふれさせて。
「もう。……なんですか?紫逢先輩。
言いたいことがあるならはっきり言ってください」
「言えるわけねえから俺も困ってんの。
とりあえず……いますぐ抱きしめて良い?」
「ここ公共の道路なんですけど」
しかも通学中の学生がそこかしこにいるんですけど。
王学の生徒もたくさんいるのに、こんな場所で紫逢先輩に抱きしめられたりしたら、それこそ絶対なにか言われるよ……!
「昨日は自分から抱きついてきたくせに……」
「それとこれとは別です」
昨日のことだって、思い返せば恥ずかしい。
自分から抱きつくなんて、結構大胆なことしちゃったよね……泣きすぎて、絶対ひどい顔になってただろうし。
「……あ。紫逢、瑠璃!」
「……あけみ先輩?」
ぐずぐずと先輩が何も言わないでいる間に、王学にたどり着いてしまった。
生徒であふれかえる校門そばで名前を呼ばれて視線を凝らせば、駆け寄ってくるのはあけみ先輩。
パープルブラックの髪を綺麗に靡かせて、彼女は「おはよう」と微笑む。
めずらしいな。会長ほどじゃないにしたって、あけみ先輩もあまり外に出てこないのに……って、あれ?
「……あけみ先輩」
「ん、なに? 瑠璃」
不思議そうに首をかしげる彼女の、カッターシャツの胸ポケット。
生徒会役員であることを示す銀のバッジの隣。花を模した小さな小さなブローチには、なんだか見覚えがあった。