そのなみだに、ふれさせて。
◆ Side南々瀬
用事をすべて済ませて、寝室の扉を開ける。
時刻はちょうど日付が変わったところで、彼は「南々瀬」と穏やかにわたしを呼んだ。
「先に寝てくれていいって言ったのに。
……仕事で疲れてるでしょう?」
言いながら、広いベッドに歩み寄る。
いつみが「お前がいないと落ち着かない」なんて冗談を言うから、ついくすりと笑ってしまった。
「うそばっかり。
この間もわたしが来たときには寝てたじゃないの」
ベッドに腰を下ろしてから、彼の隣に潜り込む。
そうすれば抱きしめられて、わたしたちにはまだ恋人気分が抜けてないなと薄ら思う。
結婚したのが早かったから、っていうのもあるけど。
子どもたちの前では普通に振る舞いながらも、ふたりでいる時はこんな風にまだそこはかとなく香るような甘い雰囲気が残る。
ベタベタ、まではいかないけど。
彼のぬくもりに目を閉じれば、額に落とされるくちづけ。やわらかな感触に身をよじると、彼の手がそっとわたしの頭を撫でた。
「瑠璃のこと、納得したのか?」
「ん……? うん、まあ。
まだはっきり判断はできないけど、しばらくはちゃんとわがまま言ってくれるでしょうし」
明日オムライスが食べたいと言った瑠璃の些細なわがままに、口元がゆるむ。
わがままにもならないような、わがまま。
「……わたしだって正直反対なのよね。
青海さんのところに、瑠璃が戻るの」
あの人は今男と一緒にいるから。
瑠璃の面倒を見てもらうのなんて反対だけど。……それでも瑠璃が母親と一緒にいたいなら、それは仕方のないことだと思うしかなくて。
「……ふふっ。でもあの子なら大丈夫よ」
この間瑠璃を家まで送ってくれた、彼。
葛西家の、跡継ぎ。一目見ただけで、瑠璃のことをどれだけ大事に思ってくれているのかわかった。