そのなみだに、ふれさせて。



返信を終えたら今度はピンポーンとベルが鳴って、玄関に急ぐ。

扉を開けば「おひさしぶりです」と、彼が柔らかくグレーがかったブラウンの瞳を細めた。



「ひさしぶりね。ルノ、莉央」



わたしたちが通っていた王学の、現理事長。

そしてその秘書である莉央。電話やメッセージでのやり取りは時折あるけれど、会うのは3月以来だ。



「あなた達が最後だったのよ。

瑠璃はまだ出掛けてるけど。どうぞ入って」



ドアを大きく開けて彼らを招き入れる。

リビングにふたりが顔を出すと、どこからともなく飛び交う「ひさしぶり」の声。



「こっちはルノから。んで、こっちは俺から。

車にまだ酒詰んであるから、足りなくなったら言えよ」



「ありがとう。

でも、一体どれだけ飲む気なの?」




ルノからと言われて手渡されたのは有名スイーツ店の箱。莉央に渡されたのはアルコールの缶がたくさん入った袋。

椛と呉羽が持ってきてくれた分と合わせても結構な量なのに、一体どれだけ飲む気なんだろう。



「ルノが仕事の関係で酒とか貰うんだよ。

こういうとこで消費しとかねーとすげえ増えるしな」



「ああ、なるほど」



王学の理事長である以前に、彼は八王子の名を継ぐひとりだ。

そっちの関係でたくさん貰うのかと納得しながら、とりあえずスイーツの箱を冷蔵庫におさめて。



「瑠璃ももうすぐ帰ってくるから、はじめる?

どっちにしたってみんなお酒飲むだけでのんびり過ごすんでしょ?」



「あ~……そうだねえ」



提案したわたしに、どこか歯切れの悪そうな椛。

その理由はみんなわかっているから特に気にせず、各々テーブルを囲んで「乾杯」と軽く缶を合わせる。



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