そのなみだに、ふれさせて。
「……理事長も一緒だったのか」
ぼそっと呟いた彼は、次の瞬間には綺麗に姿勢を正す。
その美しい立ち姿は、紛れもなく葛西で教え込まれたもの。
「はじめまして、葛西紫逢です。
瑠璃……彼女とお付き合いさせて頂いてます」
「ちょ、はあ……!?
瑠璃、彼氏がいるなんて聞いてな、」
「だっていろちゃん絶対文句言うもん。
ほんとは今日だって来てもらう予定じゃなかったんだよ?でも南々ちゃんが呼んでいいって、」
「南々ちゃん先に報告してくんねえかな……!?
俺おかげで今すげえダメージ受けてんだけど……!」
先に報告してもダメージ受けたでしょ、とは、言わないでおく。
それに、先に報告したら断固反対するじゃないの。
「ごめんなさい、騒がしくて。
このふたりがわたしのお兄ちゃんで、」
瑠璃が説明しているのを聞きながら、ちらりとみんなの顔色を窺う。
椛と呉羽はショックを受けてるし、ルノはきっとふたりの関係を知っていたんだろう。莉央も特に何も言わないし、いつみはなにか考え込んでる。
「いい加減妹離れしてやれよ。
……それより、お前も報告あるんだろ」
意外にも、微妙な空気を断ち切ってくれたのは夕帆先輩で。
彼の言葉に、椛が表情を堅くした。
「とりあえず、適当に座って?
ここで立ったまま話しても仕方ないでしょう?」
「そうだね。隣おいでよ瑠璃」
呼ばれて、呉羽の隣にちょこんと座る瑠璃。
こういう場に慣れているのか物怖じしないだけなのか、彼の顔色が特に変わる様子はない。