そのなみだに、ふれさせて。



もくもくと夕飯を食べていた瑠璃が、そう言ってわたしを見る。

人脈が凄いかどうかはわからないけど、たしかに色々なジャンルの知り合いがいるのは確かだ。



「瑠璃だって、」



生徒会には色々な子がいるでしょう?と。

言いかけたわたしを遮るように、突然鳴り響く着信音。その音を聞いて、無意識に背筋が伸びた。



「はい。珠王です」



この着信音。

いつみがプライベート用とは別に持つ、仕事用のスマホ。



「……分かった。すぐ向かう」



彼の一言に、ピリッと空気が張り詰める。

いつみは「悪い」と一言言って、一度だけわたしに視線を投げる。それから、ものの数十秒後には車のキーを片手に、家を出て行ってしまった。




「……何か、あったのかな」



「わざわざいつみが呼び出されたってことは、かなりの緊急だろ。

酒弱ぇのわかってるから、はじめから飲んでねえのはラッキーだったな」



稀にあるこの呼び出しに、いつもいつも、なんとも言えない感情が顔を出す。

それは当然いつみが呼び出されたことへの寂しさではなくて、知らない誰かの、危機的状況に、だ。



もちろん守秘義務的なものはあるだろうから、仕事内容をいちいち彼に聞いたりはしない。

だけど、こうやって緊急に呼び出されるってことは、少なくとも安全な状況ではない。



それをわかっているから、不安になる。

たとえ相手が知らない誰かだろうと。消えてしまいそうな淡い命の灯火を思うと、苦しくなる。



「だいじょうぶだよ、南々ちゃん。

いっくんは、優秀なお医者さまだもん」



にこり。

笑った瑠璃に励まされて、肩の力が抜ける。……瑠璃に励まされてどうするの、わたし。



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