そのなみだに、ふれさせて。
「……そうね」
いつみが一瞬わたしに視線を投げるのは、緊急の電話が入った時、彼がよくする癖だ。
「大丈夫だから、悪いけど待ってろ」って意味を込めた視線。
「ほら、冷めちゃわないうちに食べなさい。
ななみもちゃんと、残さずに食べるのよ?」
「うん、」
暗い顔をしているわけにはいかない。
いつみが帰ってきた時、「おかえりなさい」って笑顔で迎えてあげなきゃいけないんだから。
「今日、デートしてたんでしょう?
ふふっ、楽しかった?」
お酒を飲んでいる大人組は、放っておいて。
子どもたちに囲まれながら瑠璃にそう聞けば、一度だけ彼に視線を向けてから、恥ずかしそうに笑ってうなずく。なんともかわいすぎる表情だ。
「あのね、ひさしぶりに水族館に行ったの。
高校生になって楽しめるかなぁって思ったんだけど、行ってみたらすごく楽しくて」
「ゴマフアザラシ見ながらはしゃいでたもんね」
「だってゴマちゃんかわいかったんですよ……?」
くすくすと笑った紫逢くんが、瑠璃の頭を撫でてあげている。
……それよりも、瑠璃が可愛くて仕方ないって顔よね。
「ちょ、そこ。瑠璃に触るの禁止」
「いろちゃんうるさいー」
瑠璃も瑠璃で頭を撫でられるのが好きなのか、椛の文句を一蹴する。
やわらかな瑠璃の黒髪が、彼女の肩を流れて。