そのなみだに、ふれさせて。
よしよしされて、楽しそうにしているななみ。
妹が懐いているからか瀬奈がちょっと拗ねているように見えるけど、紫逢くんが屈託なく話しかけると、瀬奈も徐々に彼に懐いていた。
紫逢くんがフレンドリーだから、子どもたちは懐きやすいらしい。
彼が面倒見よく瀬奈とななみを見てくれているから、わたしも莉央と会話を混ぜつつお酒を飲んでいれば。
「南々ちゃん、ななみ寝ちゃったよ」
「え、うそ。
気づかなくてごめんなさい。変わるわ」
彼の腕の中でさっきまで笑顔を見せていたはずのななみが、すっかり眠ってしまっていた。
しかも眠そうにしていたななみを、寝るまでずっとあやしてくれていたようで。
「葛西選んで正解じゃね?」
ななみを抱き上げて莉央の隣にもどれば、彼はそんなことを言う。
何かと思えば、「瑠璃の彼氏」の話らしい。
「瀬戸内選んだらお前泣く羽目になってたしな」
「え……?」
「あいつ彼女いるだろ?
……彼女っつうか、結婚決まってる婚約者か」
瑠璃の顔が、かすかに強張る。
だけど莉央はそれに気づかなかったようで。
「好きじゃねー女と結婚なんて、あいつも嫌だろうけどよ。
御陵に別の男が入るより、跡継ぎの権利があるあいつが結婚したほうが早ぇもんな」
「……莉央。あなた少し酔ってるでしょう。
あんまりペラペラしゃべったら、業務に差し支えてくるんじゃない」
「ほら水飲んで」とグラスを渡して、強制的に話を終わらせる。
戸惑いを隠せないとでもいうように、瑠璃の瞳がゆらゆらと揺れていた。