そのなみだに、ふれさせて。



「それはそうだけど……」



「翡翠ももう高校生だよ。

同年代に比べても圧倒的にしっかりしてるし、瑠璃は何が心配なの」



「別に翡翠が何もできないって思ってるわけじゃないもん……

むしろ、わたしよりもしっかりしてるし」



翡翠の生活能力だったり、語学力については、何の心配もしていない。学校の留学制度とあって、ちゃんとサポートもされている。

……ただ、わたしが、思っているのは。



「わたしと翡翠って、生まれてからずっと一緒だったでしょ?

だからね、離れるのが、すごく不安なの」



兄離れできていないとか、そういうことじゃない。

でも、わたしと翡翠は、いつだって一緒だった。……片時も、離れたことはなかった。



いろちゃんや呉ちゃんに比べて、わたしと翡翠には圧倒的におそろいが多い。

幼い頃なんて、持ち物はすべてお揃いや色違いだったと言ってもおかしくない。




洋服、歯ブラシ、コップ、タオル。

なんでも色違いで、成長していくスピードは、いつだって横ならびだった。



さすがに中学生になると、色々変わってくることも多かったけど。

それでもわたしと翡翠は、ふたりでひとつだった。



「『麻生』って呼ばれるのが、嫌なの」



「………」



「だって中学のときは、みんな『瑠璃』と『翡翠』って呼んでたのに。

……いまは、ふたりとも『麻生』って呼ばれるの」



王学の学科は、ぜんぶで5つ。

普通科、成績が特に優秀な特進科、教師を目指すための教養科、アスリート育成のためのスポーツ科、芸能人育成枠の芸能科。



みんなに勧められて特進科に入ったわたしと、公立中学の教師であるいろちゃんと同じように教師という夢を追うため、教養科に入った翡翠。

同じ校舎だけど会うことはほとんどなくて、一緒の場に居合わせることがないせいで、わたしを瑠璃と呼ぶのは、大半がちーくんだと思っていい。



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