そのなみだに、ふれさせて。
……たしかに、誰にもそんな話をした覚えがない。
そもそもわたしは、自分なりに隠しているつもりだった。どうやらバレバレだったようだけど。
「わたしも……具体的には言えないんです」
そっと視線を落とす。
さらりと流れた黒髪が彼と同じであることを思い出して、じわりと涙が滲んできた。
「一緒にいるようになって……
色々、見えるものがあるじゃないですか」
ほかの生徒たちからまるで隔離されたように。
閉ざされた、6人だけの世界だったあの場所で。
「その中で会長は、たったの一度もわがままを言ったことがないんです。
わがままというか……望みというか」
紛れもなくあの人は王学の頂点に立っているのに。
……なぜか、あきらめているように見えた。
「だから、はじめは、ただわがままを言って欲しかったんだと思います。
南々ちゃんたちにわがままを言えなかったわたしが言うのもなんですけど……」
思ってることを言って。
頼ってくれれば、きっとそれでよかった。
「なら、瑠璃は。
……はじめから会長を好きだったんだね」
「……わたしの話、聞いてました?」
「聞いてたよ。わがままを言って欲しいって思ったんでしょ?
……だけど瑠璃、考えてもみなよ」
月明かりに照らされたプラチナゴールドの髪が、まるで月光色のように鈍い明るさを湛える。
人工的なオッドアイは、やけに扇情的だった。
「人間は、好きでもない相手に、"わがままを言って欲しい"なんて絶対に思わない。だって不利益なことに身を裂く時間なんて無駄だから。
そうやって本能的に、自分にだけ合理的に生きられるようになってるんだよ」