そのなみだに、ふれさせて。
いつの間にか扉から顔を出していたのは南々ちゃんで。
とっさにそう声を上げるわたしに、彼女は綺麗に笑って「声でなんとなく状況わかってたから」と言うけれど。
……え、聞いてたの? いまの会話ずっと?
結構赤裸々に恥ずかしい話してたよ……!?
「椛と呉羽が、絶対イチャイチャしてるから引き離せってうるさかったのよ。
……でも邪魔されたくないでしょう?」
「や、べつに邪魔ではないけど……」
見られると気まずい。何より恥ずかしい。
そう思って口ごもると、南々ちゃんはきっとわたしの心境なんてお見通しなんだろうけど、「はやく入ってきなさいね」とだけ言って部屋にもどっていった。
「入ろうか」
ふわり。
穏やかに笑った紫逢先輩が、わたしに手を差し出す。
「……はい」
「ん」
その手をきゅっと握れば、握り返してくれた。
この優しさに、何度も何度も、縋りたくなった。
……ううん、実際、何度も甘えてきた。
だけどそれじゃあ、あけみ先輩に失礼だと思う。
ずっと紫逢先輩だけを想ってきた彼女。
瑠璃になら、って、そう言ってくれた。
「あの……紫逢先輩」
逃げるほうが、人生ラクに決まってる。
だけどその分、後悔だって大きい。