そのなみだに、ふれさせて。



いちばん上の兄とその母親は名字が違うこと、そもそも母親がふたりいること、父親の会社が経営できなくなって自らの手で終わらせたこと、母親に捨てられたこと、だからこそ居候していること。

話題なんてもの、尽きないほどにある。



ひとまず一通り話したあと、部屋にはふたたび沈黙が訪れた。

ちーくんは一緒にいる期間が長いだけあって事情は知っているものの、こうやってはっきりと誰かに過去の話をするのははじめてだった。



「ねえ、瑠璃ちゃん」



その中で唯一口を開いたのは、彼女だった。

ほづみちゃん。会長の彼女という立場を持つ彼女のまっすぐな視線が、わたしは怖い。



「わたし、どうしても理解できないんだけど」



「、」



痛い。

何が、とか。わからないけど、痛い。




「親が不倫していただの、家を捨てて出て行っただの……

それって、そんなに悲しむようなこと?」



「ほづみ」



「だってあなた自身は何も苦しんでいないでしょう?

実際、捨てられたといえどもうひとりの母親も父親もいる。兄妹だっていて、居候先の人だって、あなたのことを快く迎え入れた」



会長の制止の声も聞かず、ほづみちゃんは続ける。

その瞳に一切の迷いがないことが、ばかみたいに怖いの。



「まるで自分だけが悲劇のヒロインみたいじゃない。

そこまで大して絶望してるようにも見えないけど」



「ほづみ、いい加減にしろ」



放たれる言葉が、心の奥を抉るように切り裂く。

硝子みたいに、あっけなく砕けてくれたら、よかったのに。……こんなの、って。



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