そのなみだに、ふれさせて。
「ただ、俺が突然返事を変えた。
ほづみとの結婚を、取り消してほしいと」
「え、」
「当然まわりもほづみも反対だった。
だからお前はわざわざ転校してきたんだろ?」
くちびるをきつく引き結ぶ彼女の頭を撫でる会長。
それに甘えるように、ほづみちゃんは会長の胸に顔をうずめた。……ふれないで、なんて、そんなこと言えないけれど。チリッと、脳裏が焦げる。
「自らの目で確かめにきたんだよ。
"好きな女ができたから結婚を取りやめてほしい"と言った俺の、好きな女のことを」
好きな、女……
背筋に、ざらりと変な感触が這う。
無意識に姿勢を正して、その声を、待った。
「お前だよ、麻生」
「っ……」
信じられなかった。
信じられなくて、ただただ「なんで?」って疑問だけがわたしの頭を覆い尽くした。
「薄らお前の気持ちには勘付いてて、それこそ俺が言ってやれば済む話だった。
……ただ、そんなことしたらほづみが何言い出すかわかんねえからな。だから先に彼女だってことにして、お前が余計なことされねえように予防線を張った」
わたしの気持ち……気づいてたの?
気づいてて……知らないふりを、してたの?
「言ってみたものの、結婚を取りやめられる確率は限りなく低かった。
だからこそ、ほづみを彼女だと言って、同時にお前との関係にも予防線を張ったんだよ」
ついていけない。
会長が淡々と語るその事実に、ついていけない。