そのなみだに、ふれさせて。
「仕事よりも、子どもの方が大事だろ」
なんでもないことみたいに。
さらっと告げられたそれに、どうしてかすごく泣きそうになってしまった。
わたしの両親は仕事で忙しかった。
彩さんかお母さんのどちらかが交代で家にいたりして、親が極端に関わらないって生活ではなかったけど、それでも兄妹のつながりのほうが大きくて。
疲れてる3人のために、いろちゃんは進んで家事をこなしてくれた。
一時期王学の生徒会棟に住んでいて家にいなかったこともあったけど、呉ちゃんが王学を目指すのと同時に、お家にもどってきてくれて。
「コンビニまで行くか。
瑠璃の好きなスイーツでも買いに」
「……うん」
そこからはいろちゃんメインで家事が行われていたし、お兄ちゃんたちを継いでわたしも翡翠も一通りの家事をこなせるようになった。
だからいろちゃんと呉ちゃんが家を出た後は翡翠と分担してこなしていたし、はじめてなのかもしれない。
仕事よりも子どもの方が大事だよって。
そう言ってくれるのは、南々ちゃんといっくんが、はじめてかもしれない。
世間的には、どちらが普通なんだろう。
子どもの方が大事だと思っている人の方が多いとは思うけれど、わたしは普通に育ってきたわけじゃないから。
世間が思う当たり前に、添って生きてきたわけじゃないから。
だから、些細なことでも気を遣ってしまうのかもしれない。
「コンビニまでそう遠くないけど、気をつけてね。
ななみ、瀬奈。パパにわがまま言っちゃだめよ?」
「わかってる。……瑠璃には言わないのか?」
「ふふ、瑠璃はもうわがままを注意しなきゃいけない年齢じゃないもの。
それに。……瑠璃はわがままを言うくらいで、ちょうど良いのよ」
くすくす笑って、「いってらっしゃい」と送り出してくれる南々ちゃん。
帰ってきたら夕飯のお手伝いするねと南々ちゃんに約束して、4人で一緒に家を出た。