そのなみだに、ふれさせて。



「うれしそうな顔してるな」



ななみと手をつないだいっくんは、彼女のスピードに合わせてかなりゆっくり歩いてあげている。

その後ろを瀬奈と並んで歩いていたら、またもや小学1年生とは思えない表情で、瀬奈はわたしにそう言って笑った。



「ななみがご機嫌だなぁって思って」



「ああ……」



いっくんと一緒にいられるのが、本当にうれしいんだと思う。

いっくんは朝が早いのに夜も遅く帰ってきたり、お休みの日にも稀に呼び出されたり。特に子どもたちはわたしよりも早く寝てしまうから、家族の時間は本当に短くて。



「瀬奈。

今度休みの日にどこか連れて行ってやろうか?」



いっくんにそう尋ねられた瀬奈の表情も、心なしか嬉しそうに見える。

いくら大人びていても、まだ小学1年生だ。さみしいものはさみしいんだろう。




「ちょっと前に、大型の書店できただろ。

……名前、覚えてねえけど」



……で、行きたいところは書店なんだね。

わたしの歳でもあんまり言わないのに真面目だ、なんて。



「ああ、国内最大級の書店ができたって南々瀬も言ってたな。

……わかった。その日は南々瀬にななみのこと任せて、一緒に行くか」



思ったけど、いっくんの言葉で瀬奈のそれがわがままだったことに気づく。

そっか、まだ幼い子向けのコーナーならまだしも、瀬奈が見たいのはたぶん大人も読む小説のコーナーとかだもんね。



いくらお利口でも、ななみがぐずると困るから、なかなか行けないし。

たとえ一緒に行ったとしても瀬奈がゆっくり本を選ぶことを考えたら、ななみは退屈してしまう。



でも小学1年生を置いてその場を離れる、なんてこと、南々ちゃんは絶対にしないし。

そう考えれば、ななみと南々ちゃんが一緒のときに本屋さんに行くのはむずかしい。



だからそれは、瀬奈なりのわがままだ。

わがままと言えないくらいの、わがまま。



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