そのなみだに、ふれさせて。
「ええ。宿題まだ終わりそうにない?」
「いや、宿題はもう終わってる」
「それじゃあ一緒に入りましょうか。
わたしとななみの着替えはさっき用意したから……瀬奈、部屋から自分の着替え持っておいで」
南々ちゃんにそう言われた瀬奈は、使っていた教材をぱたんと閉じる。
その表紙に書かれている文字は『数学B』。……おかしいな。瀬奈って小学1年生なんだけど。
まだピカピカのランドセルを背負ってる1年生なんだけど。
……数学Bって高2の範囲だから、わたしですらまだ習ってないんだけど!
「恐ろしい学力……」
部屋に着替えを取りに行った瀬奈。
南々ちゃんとななみは先に脱衣場に行ってしまったから、リビングにぽつりとわたしの声が落ちる。
瀬奈は南々ちゃんの息子で、ななみのお兄ちゃんだ。
小学1年生なのに、言動はそれとは程遠く大人びていて。時折、わたしのほうが子どもっぽいんじゃないかと思ってしまうこともある。
「瑠璃」
「……どうしたの?瀬奈。
南々ちゃんとななみ、待ってるよ?」
「何か悩みでもあるのか?」
どこか真剣な瞳を向けられて、思わずぎくりとした。
……考えないようにしていたのに、会長の「彼女」という言葉を思い出して、気持ちが沈む。
「そりゃあわたしにだって悩みくらいあるよー。
もしかして、わたしが何にも悩まないお気楽人間だとでも思ってたの?」
「そうじゃねえよ。……ただ、」