そのなみだに、ふれさせて。



大丈夫と言われてしまえば、特に手伝うこともないし。

リビングで勉強してもいいんだけど、子どもたちが寝たあとは、南々ちゃんといっくんが唯一ふたりでのんびりと過ごせる時間だ。



だから邪魔したくなくて。



「南々ちゃん、わたしもう部屋行くね」



「あら、いてくれて構わないのよ?」



「ううん、いろちゃんに電話もしたいし」



言えば、南々ちゃんは「そう」と少しだけ寂しそうに笑った。

「おやすみなさい」をお互いに交わして、部屋に入る。



横着だけどベッドに寝転んでスマホの液晶を撫でると、連絡先の中にある『騎士(きし)椛』をタップした。

わたしたち兄妹は、名字が、違う。……でも。




『もしもし。どした〜?

お兄ちゃんに会えなくてさみしくなった〜?』



「いろちゃん……」



ちゃんと、兄妹でいられる。

それは紛れもなく、長男であるいろちゃんが、いつもわたしたちを支えてくれていたから。



わたしたちを傷つけないようにって、誰よりも大事に思ってくれていたのは、間違いなくいろちゃんだ。

今だって。……みんなの間に入って、長男としての役割を果たしてくれている。



「さみしいよ。

……だって、わたしたち兄妹だもん」



家族という言葉を避けるようになったのはいつからだっただろう。

幸せなんて長続きしないんだと、マイナス思考に陥ることが増えたのはいつからだっただろう。



その答えは、何度だって。

……わたしたち家族が終わったあの日へと、記憶を引き戻す。──まるで、呪い、みたいに。



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