そのなみだに、ふれさせて。
◆ Side南々瀬
「瑠璃は部屋に行ったのか?」
お風呂上がりの彼と、「ただいま」「おかえり」の言葉のやり取りをしたあと。
タオルで髪を拭いながら尋ねてくるいつみに、「ええ」と返し、冷蔵庫の扉を開ける。
「おやすみって言ってたから、
きっと今日はもう下りてこないわよ」
「……そうか」
取り出した2本の缶のうち、シルバーのそれを、いつみに手渡した。
ちなみに彼はお酒にものすごく弱いから、ノンアルコール。まあわたしの持っているピーチ味の酎ハイも、そこまで度数は高くないけど。
「色々と気にしてるみたいだな」
向かい合って席につき、彼の遅めの夕飯中にこうやって話すのはいつものこと。
瑠璃が気を遣ってふたりにしてくれるのだけれど、彼女が思っているような甘い会話は、正直あまり無いと言ってもいい。
「生徒会も上手く機能してねえって、
お前もルノから連絡受けて知ってんだろ?」
「ええ、それはもちろん」
現在王学で理事長をつとめているルノは、何かと身の回りのことをわたしたちに連絡してくれる。もちろん守秘義務に引っかからない程度で。
いまの生徒会は表面上、仕事の上ではちゃんと纏まっているように見える。だけど、誰もがどこか一線を引いている現状を見る限り、機能していないと言っても過言じゃない。
「何か上手くアドバイスしてあげられたらいいんだけど……
ほら、わたしがあなたにロイヤル部に引き入れられた時、もう既にみんな仲良かったじゃない?」
王学が創立以来、一度だけ生徒会執行部の名前を変えた。
それがロイヤル部で、そのときトップに立っていたのがいつみだ。
「わたしが生徒会長になった時だって、
役員は全員、親しいメンバーでの構成で、」
役員になるならないを抜きにしても、仲の良いメンバーだったから、生徒会も上手く機能していたけれど。
どうやら指名制を取ったところで、あの頃のように仲睦まじくできるわけではないらしい。