そのなみだに、ふれさせて。
「……いまの瑠璃にそれを求めても酷だろ。
ただでさえ、翡翠のことで落ち込んでる」
「……そうね」
誤魔化すように、缶に口をつける。
どうすれば上手くいくのかしらとぼんやり考えていたら、不意にいつみが手を伸ばしてわたしの頭を撫でた。
「……? なに?」
「あんまり頑張り過ぎるなよ。
……仕事忙しいのに、育児も任せっきりだからな」
「あら、そんなこと気にしてたの?」
それ以上にいつみが忙しいことを知っているから、文句は言わない。いつみとの間に生まれた子どもを育てるのに、苦痛だと思ったことはないし。
ゆっくり休息を取りたいはずの休みの日だって、彼は子どもたちを優先してくれる。
「わたしは全然平気よ?」
頭に触れたままの彼の左手。
缶をテーブルに置くと、するりと絡ませた指。同じ位置、薬指には、彼がくれた永遠の愛の誓いが褪せずに嵌められている。
「あなたのおかげで幸せだもの」
まぶしそうに、目を細めるいつみ。
彼が微かに身を乗り出したのを見て、キスされるなと次の展開を悟る。素直に目を閉じれば、くちびるには触れるだけの優しいキスが落とされた。
「瀬奈と、ななみと。
あとは……瑠璃のことも、頼むな」
「ふふ、安心して。
絶対、あの子たちのことは守るから」
大丈夫だ。
……だって。わたしといつみは、お互いに交わした約束を破ったことなんて、一度もない。