そのなみだに、ふれさせて。
◆
──2年6ヶ月前、12月。
「おやすみ、瀬奈」
さっきまでぱっちりとした瞳をわたしに向けていた瀬奈は、いつもの時刻になると、自然に寝付いた。
いつみに似たのかさらさらの黒髪を撫でて、小さく額にキスを落とす。それから彼に布団を掛け直して、静かに子ども部屋を出た。
踏み外してしまわないよう、手すりを持ってゆっくりと階段をおりる。
なんせ現在、妊娠5ヶ月。
お腹にふたりめの子どもがいるのだから、さすがにわたしもいつも以上に気を遣う。
……まあそれ以上に、わたしの旦那さまの方が、わたしのことを心配してるけど。
瀬奈がお腹にいた時もそうだった。
「やれることは俺がやるから安静にしてろ」と何度も口うるさく言われたし、ただでさえ忙しいのに家事をこなしてくれている。
おかげで彼は料理以外のことなら一通り出来る。
休みの日だって、疲れているはずなのに瀬奈と遊んでくれるし。
「ねえ、いつ──」
そんな彼に、先にお風呂に入ってもらおうと思いながらリビングの扉を開けて。
途中で彼が電話中であることに気づき、ぱっと口を噤む。
「ああ、それで、逮捕されたのか?」
その呼びかけでわたしに気づいたいつみは、電話を続けながら手招きした。
そのまま、指示された通りソファに座る彼の隣に腰を下ろせば、空いた手でわたしの頭を撫でる彼。
「それなら、とりあえずは大丈夫そうだな。
何なら、こっちで信頼できる弁護士紹介してやろうか?」
……誰と話しているんだろう。
っていうか、なに、逮捕って。
うっすら声は漏れて聞こえてくるけれど、相手が誰なのかを特定するには至らない。
いつみがわたしの頭を撫で続けているから、下手に身動きも取れなくて。