そのなみだに、ふれさせて。







──2年6ヶ月前、12月。



「おやすみ、瀬奈」



さっきまでぱっちりとした瞳をわたしに向けていた瀬奈は、いつもの時刻になると、自然に寝付いた。

いつみに似たのかさらさらの黒髪を撫でて、小さく額にキスを落とす。それから彼に布団を掛け直して、静かに子ども部屋を出た。



踏み外してしまわないよう、手すりを持ってゆっくりと階段をおりる。

なんせ現在、妊娠5ヶ月。



お腹にふたりめの子どもがいるのだから、さすがにわたしもいつも以上に気を遣う。

……まあそれ以上に、わたしの旦那さまの方が、わたしのことを心配してるけど。



瀬奈がお腹にいた時もそうだった。

「やれることは俺がやるから安静にしてろ」と何度も口うるさく言われたし、ただでさえ忙しいのに家事をこなしてくれている。



おかげで彼は料理以外のことなら一通り出来る。

休みの日だって、疲れているはずなのに瀬奈と遊んでくれるし。




「ねえ、いつ──」



そんな彼に、先にお風呂に入ってもらおうと思いながらリビングの扉を開けて。

途中で彼が電話中であることに気づき、ぱっと口を噤む。



「ああ、それで、逮捕されたのか?」



その呼びかけでわたしに気づいたいつみは、電話を続けながら手招きした。

そのまま、指示された通りソファに座る彼の隣に腰を下ろせば、空いた手でわたしの頭を撫でる彼。



「それなら、とりあえずは大丈夫そうだな。

何なら、こっちで信頼できる弁護士紹介してやろうか?」



……誰と話しているんだろう。

っていうか、なに、逮捕って。



うっすら声は漏れて聞こえてくるけれど、相手が誰なのかを特定するには至らない。

いつみがわたしの頭を撫で続けているから、下手に身動きも取れなくて。



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