そのなみだに、ふれさせて。



「誰と電話してたの?」



彼が電話を終えてからようやく口に出して問えば、いつみはスマホをテーブルにおいて「椛」と答える。

それから片腕をわたしの腰に添えたかと思うと、もう片方の手でゆるく巻かれたわたしの髪を弄んだ。



「椛の父親、自営業だっただろ」



「ああ、うん」



椛はもうすでに公立の中学教師になっているし、どうやら家業を継ぐ気はないようだ。

決して大きくはないものの、わたしたちが高校生の頃にはもうすでに安定していて、世間を裏で支える中小企業の一つだった。



今も、可もなく不可もなく、という感じの企業だったと思うけど。

その椛のお父様の会社がどうかしたんだろうか、と。



いつみを見つめれば、彼はゆっくりと口を開く。




「数日前、

金庫に入れてあった金が盗難されたらしい」



「え、」



「一応、犯人は捕まったんだと。

経理担当と外部の人間が手を組んで、外部の人間が盗みに入った。その盗んだ金を、経理担当の男と折半する約束になってたらしい」



経理担当ってことは……社内に、犯人がいたってこと、よね。

それじゃあ、顔見知りの人間の犯行だったってことだ。



「どうやら手を組んでいたふたりは、どっちも負債を抱えてたみたいでな。

残念なことに、金はすでにそれに使われて手元から無くなってる。だからもう戻ってこない」



結構な額だったらしい、と。

静かに述べる彼に、言いようのない気持ちに襲われる。……だって、そんなの。



「それじゃあこれから、会社は……」



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