そのなみだに、ふれさせて。
「……あと、もうひとつ」
「うん?」
「椛は、呉羽と双子にこの話をしてない。
でもいずれ伝わるから、今日話す。……だから。呉羽にもし何かあれば、支えてやって欲しいんだと」
呉羽が支える側の人間なのにごめんな、と。
椛はそう謝っていたらしい。……だけど、謝る必要なんてどこにもないと思う。
むしろ、それ以上のことは何もしてあげられないのなら、せめて出来ることをすこしでも多く手助けしたい。
社長だとか秘書だとか、そういうのは関係なく。
お互いがただひとりの人間だと考えれば、手を差し出すのは容易いことだ。
それに、仕事とはいえ、呉羽は本当にわたしのことをたくさん支えてくれている。
いまだって妊娠中で、仕事上、どうしても不可能なことが多い。
そんなプライベートなことも、嫌な顔ひとつせずサポートしてくれるのは、呉羽だからだろう。
「もちろんよ。
部下の面倒は、わたしが見ます」
「ん。そう言うと思ってた」
ふっと柔らかく笑ってくれる彼。
こつんと額を合わせて、目を閉じる。
「……お前なら大丈夫だよ」
至近距離で囁かれる言葉。
それに、「うん」と短く返してみせる。
今回の件についても、弟妹たちにすら伝えずに、自分ひとりで行動した彼は、やっぱりあの"家族"の長男なんだろうと思った。
……だから信じて疑わなかった。
微かな傷でも、見逃せば致命傷になる。
それを知らないほど、子どもじゃなかったのに。