そのなみだに、ふれさせて。



──2年3ヶ月前、3月。

我が家のリビングには、椛と呉羽の姿があった。



「離婚した……?」



椛から告げられた言葉を、思わず反芻する。

あれから3ヶ月。椛のお父様の会社の売り上げ成績は下がる一方で、結局一番最適だと思われるタイミングで解散した。



そして引き続きどこかの企業で仕事を続けたいという人たちのために、

約束通り、ルノたち八王子グループ、珠王、わたしが社長をつとめる8プロで受け入れを行った。



幼い頃に椛たちの両親が貯蓄していた金額のほとんどは返済や損害などで消えてなくなってしまったが、生活ができないわけではない。

特に椛と呉羽が既に成人して働いている分、支障はないと言ってもいいレベルだった。



……ただ、問題は。



「離婚、っていうか……

青海さんが、一方的に離婚届書いて出てった」




いびつな関係にあった、家族の方だった。

もともと、彼らの家族構成は、母ふたりに父ひとりという複雑なもの。



父親の麻生の姓を継いだのは呉羽と双子の実の母親である青海さん。

だから椛と、椛の母親である彩さんは、『騎士』という名字を名乗っていた。



「……例の件で、揉めたのか?」



「それが……」



やはり今回の盗難のことが発端だろうか、と。

理由を問ういつみとわたしに、言いにくそうに口を開いたのは呉羽で。落ち着き払っている椛と違って、その瞳は戸惑いに揺れていた。



「男と……出ていったんです」



まだ、噛み砕けていないかのように。

放たれた言葉は、どこか無機質だった。



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