そのなみだに、ふれさせて。
椛にそう言われて、「じゃあそうするわ」とうなずく。
3人に「おやすみ」を告げてから、子ども部屋に向かった。瀬奈のベッドは大きくなっても使えるように、大きめのもの。
まだ4歳の瀬奈とわたしなら充分なくらいスペースがあるため、彼の隣に寝転んで。
あやす様にそっと一定のリズムで背中を優しく叩いていると、安心したように瀬奈は眠った。
いつみによく似てるけど、まだ幼い寝顔。
それをしばらく見つめていれば、自然とまぶたが重くなってくる。
ふわふわと夢と現実の隙間で揺蕩うような感覚の中で、先ほどの話を思い出した。
……わたしたちの関係は、高校生の頃から続いている。
だから椛と呉羽の弟妹である瑠璃や翡翠とは、度々交流があった。
瀬奈が生まれる少し前に建てられたこの家が、当時の生徒会メンバーが何かと集まる場所になっていて。
家が近いし、何気ない日常の中、瑠璃と翡翠がふたりで遊びに来てくれることもある。
……だから、当然関わりはあるけれど。
ふたりがいつも通り笑っていられるのかは、別問題だ。
平気なはずがないって、わかってるから。
「……南々ちゃん」
──そして実際、瑠璃は平気ではなかった。
いつみも了承してくれたおかげでふたりは居候として2年生に進級する手前の春休みに、わたしたちの家に訪れた。
けれど困ったようにわたしを呼んだ翡翠。彼もまだ立ち直れていない瑠璃に、困っているようだった。
翡翠が話し掛ければ返事はするけれど、うなずくか首を横に振るかのどちらか。
翡翠に対して"こう"なのだから、わたしがどうこうできる問題でもない。
……だけど、自分が経験したことのない痛みだからこそ相手のことを思いやって動かなければ、傷口も塞いであげられない。
「瑠璃」
名前を呼んで。
ゆっくり顔を上げた彼女の頭を引き寄せ自分の肩にうずめさせると、そっと慰めるように頭を撫でる。
「……もう我慢しなくていいのよ」