そのなみだに、ふれさせて。
・押しても引いても酷と言うならば
◆
──1年5ヶ月前、1月。
リビングで課題を広げていた瑠璃が、「もうやだ……!」と突然声を上げる。
それからハッとしたように口をつぐんで、リビングに敷いている布団ですやすやと眠っているななみを見た。
どうやら起こしてしまったかもしれないと慌てたようだけれど、ななみはぐっすりお昼寝中。
「どうしたの? 瑠璃。
何かわからないところでもあった?」
「ううん、違うよ南々ちゃん」
くすくすと。
笑った翡翠は、彼女の手元にあったプリントをぴらっとわたしに見せてくれる。キッチンカウンター越しにそれを見つめれば。
「進路希望調査票?」
書かれていたのはその文字で。
もうそんな時期?と、思わず考えてしまった。
「まだ進路が決まってないから、ずっと提出ごまかして先延ばしにしてたんだよね。
でもついに担任に追い詰められちゃったんだよ」
「だってまだ2年の1月だよ……!?
2月に試験って考えてもまだ1年あるんだよ!?」
「そう言われてもね……」
さっきより声をひそめながらも熱く言う瑠璃に、苦笑している翡翠。
ちなみに彼は椛と同じで教師を目指すと決めているため、王学の教養科に絞っているらしい。
「瑠璃は、何かやりたいこととかないの?」
3人分の紅茶と、紙パックのオレンジジュースをトレーに乗せてリビングに運ぶ。
ソファには座らず床に直接腰を下ろせば、めずらしく膝の上に乗ってきた瀬奈。ひとまず瀬奈にジュースを手渡して、ティーポットからカップに紅茶を注ぐ。
「やりたいこと……?
んーと、んー……特にない、かなぁ……?」