そのなみだに、ふれさせて。

・押しても引いても酷と言うならば








──1年5ヶ月前、1月。

リビングで課題を広げていた瑠璃が、「もうやだ……!」と突然声を上げる。



それからハッとしたように口をつぐんで、リビングに敷いている布団ですやすやと眠っているななみを見た。

どうやら起こしてしまったかもしれないと慌てたようだけれど、ななみはぐっすりお昼寝中。



「どうしたの? 瑠璃。

何かわからないところでもあった?」



「ううん、違うよ南々ちゃん」



くすくすと。

笑った翡翠は、彼女の手元にあったプリントをぴらっとわたしに見せてくれる。キッチンカウンター越しにそれを見つめれば。



「進路希望調査票?」



書かれていたのはその文字で。

もうそんな時期?と、思わず考えてしまった。




「まだ進路が決まってないから、ずっと提出ごまかして先延ばしにしてたんだよね。

でもついに担任に追い詰められちゃったんだよ」



「だってまだ2年の1月だよ……!?

2月に試験って考えてもまだ1年あるんだよ!?」



「そう言われてもね……」



さっきより声をひそめながらも熱く言う瑠璃に、苦笑している翡翠。

ちなみに彼は椛と同じで教師を目指すと決めているため、王学の教養科に絞っているらしい。



「瑠璃は、何かやりたいこととかないの?」



3人分の紅茶と、紙パックのオレンジジュースをトレーに乗せてリビングに運ぶ。

ソファには座らず床に直接腰を下ろせば、めずらしく膝の上に乗ってきた瀬奈。ひとまず瀬奈にジュースを手渡して、ティーポットからカップに紅茶を注ぐ。



「やりたいこと……?

んーと、んー……特にない、かなぁ……?」



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