そのなみだに、ふれさせて。
考えても出てこなかったのか、へらりと笑ってみせる瑠璃。
一緒に住むようになった頃に比べれば、彼女は随分と表情豊かになった。……もともと楽観的な性格だったのが功を成したらしい。
「やりたいことがみつからないなら、そこから考えるのは難しいわよね。
それに瑠璃や翡翠の周りにいる大人はみんな、就職活動なんてしてない人ばっかりだもの」
いつみは珠王の跡継ぎだった分、それに沿って大学に通っていたわけだし。
彼の幼なじみである夕帆先輩は、現在はまだ秘書として働くほどでもないため、彼と同じ病院の小児科医として働いている。
ルノもルアも、それぞれ家の仕事をしているし……
莉央は理事長秘書としてルノのもとで働きながら、ルアが帰国した時の国内マネージャーも兼任している。
夕陽に至っては、今もまだアイドルを続けているし、役者の仕事も頑張っているし。
呉羽はわたしの秘書だ。
「ほとんどみんな、
家の仕事してたり、その秘書になってるもの」
たしかに付き合いは長いけれど。
誰かが就活に焦っていた記憶は無い。
「でもそれって、大学の後の話だよね?
みんな高校は王学だけど、どうやって決めたんだろ。いろ兄は、俺と同じ理由だと思うけど」
「南々ちゃんは転校生だもんねー」
みんながそれぞれ王学に決めた理由は、ある程度の範囲なら知っている。
だけどややこしい話が絡んでいるものもあるし、いまこの子たちに話しても、負担になるだけだろうし。
「やりたいことがないなら、何にでも挑戦してみればいいのよ。
やりたいことがないから、王学に通うっていうのもアリだと思うわ」
「そっか、王学には設備も揃ってるもんね。
……瑠璃、俺と一緒で王学にしたらいいんじゃない?」
紅茶を一口飲んで、ソーサーに置く。
お利口に膝の上に座っている瀬奈の頭にうしろから手を乗せて、楽しげに会話するふたりを見つめながら。
そろそろみんなに会いたいな、と薄ら思った。