そのなみだに、ふれさせて。



「つーか、夕陽ちゃ〜ん?

俺はあれだけ南々ちゃんにべーったりのお前を見てきたのに、テレビで『人気アイドルNANA結婚』の文字を見てびっくり仰天したわ〜」



「マジでそれな。

コイツ俺にも黙ってたんだぞ信じられねえ」



「別に兄貴に言う必要無いじゃん」



ぷいっと顔を背ける夕陽。

彼が結婚したのは、年が明ける前のことだ。どうやら口ぶりからして、みんな知らなかったらしい。……夕帆先輩も知らなかったのか。



「夕陽、話してなかったの?」



「だってコイツらどこで口滑らすか分かんないし」



「なんでお前俺に言わずに南々瀬ちゃんには報告してんだよ」




相変わらずの兄弟喧嘩が繰り広げられるのを、苦笑しながら見守る。

ちなみにわたしが彼の結婚を知っていたのは、夕陽がその子と付き合う前からずっと相談に乗ってあげていたからだ。



相手は、『Fate7』元マネージャー。

彼らのマネージャーは度々変わるのだけれど、ふたりめのマネージャーさんだ。……度々というか、その子が結婚と同時に退社しただけだけど。



「お前よー。

南々瀬のことそんな特別視してんのに、よく結婚できたな。世間の評判良くねーだろ」



「いつ結婚したってどっちみちファンは減るだろうし、気にして無いよ。

それに、俺にとって一番特別なのはずっとナナだし」



じゃあなんで結婚したんだという顔をしている莉央。

莉央だけじゃなく、みんなも「理解できない」って顔をしているけれど。



ここまで一貫してわたしを特別だと言ってくれる夕陽。

そんな夕陽が、わたしではない女の子と付き合ってきて、結婚を選んだ。……それなら、間違いなく彼女を大事にしている証拠だろう。



わたしを特別だと言っているのはあくまで口先だけ。

恥ずかしがるだろうから言わないけれど、わたしは散々彼女へのノロケを聞かされてきた。



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